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成人女性を対象とした自作小説を置いています。
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〈ケイはやっぱりこいつに毒されたんだな。こいつを庇うか?〉
〈ウル、そうじゃない。この人を襲ってもなんにも意味がない。今夜は引いてくれ〉
〈こいつが先に手を出した。仲間があの通り顔を殴られてるんだ。もう引けねえよ。あのな、ケイ。おまえはレンじいの孫だけど、だからってあっちの味方をするなら容赦しねえ。死体のひとつふたつな、鉱山坑に落としちまえば出てこねえ。そうやって消える人間が出れば、この掘削もやめざるを得ないよな〉
 そう言ってウルは腰ベルトから拳銃を取り出した。よりにもよってまずいものを持っている。これも市場で手にしたのか――慄然とする。
 他の男たちも、棒や鎌など、それぞれに物騒なものを握り直した。
〈音が大きいからあまり使いたくない。抵抗しないなら殺さない。こっちへ来い。おまえたちを人質に交渉する〉
〈ウル、そんなことをしても意味がない。おれはおまえに人殺しになってほしくないし、みすみすこの人やおれが殺される気もない。人質にもならない。行ってくれ、頼むから〉
〈おまえら日本人同士でケツ掘りあってるあいだにな、おれたちがどれだけ苦労してるか知ってるか? ここにいるのは先祖代々の土地を奪われたやつらだ。鉱脈にあった土地を安く買い叩かれ、家を出ざるを得なくなって、町の隅っこで残飯漁ってマンホールの下に潜って、なんとか寒さと飢えをしのいでるやつらなんだよ。それをレンじいは議員に申し立て、交渉に持ち込もうとしてくれた。その孫がだぞ? 孫のおまえが、こうやって丸め込まれて、自分はいい暮らしをして、なにをしてるんだ?〉
 男たちのぎらつく視線が刺さる。言葉が出ない。
〈どっちつかずの日和見もいい加減にしろよ。日本人がいいならそいつと坑に落っことしてやるからよ。そこで永遠にやりまくってろ〉
 にじり寄る気配があった。夜目の効く慧には月の欠けた夜でも動作のひとつひとつが他愛なく分かる。だが背後の夜鷹はどうだろう。彼を守って、逃してやらなければという気持ちが強い。
 じりじりと距離を詰められ、囲まれる。慧は夜鷹を庇うように背にしながら、腰を低く落とす。まずはウルの拳銃を手元から弾きたい。けれど慧は身軽すぎて、身に着ける武器など持たなかった。
 ウルが拳銃を構える。周囲の仲間らが半円状に逃げ場を塞ぐ。
「ヨダカ、なんとか逃げ道を作るから、そこから逃げっ――」
 膝裏を思い切り弾かれ、反射でその場に竦んだ。背後からで、夜鷹が慧の膝を払ったのだ。守ろうとしている相手からの裏切りに、なにがなんだか訳が分からなくなる。顔から地面に突っ込むと、慧の腰に容赦なく夜鷹の靴が乗った。
〈なるほどね。鉱山開発のおかげで家のなくなったやつら? だったら鉱山で働け。口なら山ほどあるし、農林業より収入は安定するぞ〉
「ヨダカっ!」
 流暢な現地語は、癖もなかった。三年いて覚えるレベルではない。慧を足蹴にして、夜鷹は男たちを挑発した。
〈ここの土地がどうなろうが、おまえらがどうなろうが、どうでもいい。おれはおれのものを傷つけられた落とし前をつけさせてもらう。報復には報復だ〉
〈どうでもいい? そういうおまえみたいな学者気取りがおれたちの生活を壊して、どれだけ――!〉
 ウルの指が引き金を引くより早く、夜鷹が動いた。手にしている三脚であっさりとウルの拳銃を払う。その三脚はそのままウルの鼻先を弾いた。ウルが痛みと衝撃で膝を折る。そこに間髪入れずに夜鷹は蹴りを入れた。
〈がっ!〉
 ウルを取り巻いていた四人がそれぞれに夜鷹へ向かう。夜鷹は実に巧みにそれを躱し、三脚で武器を払っていった。だがひとりに足を掬われ、夜鷹は地面に崩れる。眼鏡が飛んだ。それを拾い、慧は夜鷹の元へ駆け出す。
「ヨダカっ!」
 四人にもみくちゃにされている夜鷹をなんとか引きずり出し、引き剥がす。逃げようと必死になっていた。五人相手では敵わないのは分かる。捕まってはおしまいだ。だが慧も足を引きずられ、再度地面に伏してからは、ふたり共に逃げる道はなくなった。
「逃げて、ヨダカっ!」
 叫ぶ慧の横っ面に容赦のない拳が繰り出される。口の中を切ったらしく、鉄の味がした。痛みで脳天がくらくらする。霞む目で夜鷹を追えば、彼はひ弱に見える手に上手く重心を移動させ、ウルの仲間をぶっている。
〈くそ、ふざけやがって〉
 近くでウルが立ち上がる気配がした。慧もなんとか身体を起こそうと躍起になる。ウルは手探りで離れた銃を引き寄せ、銃口を夜鷹に真っ直ぐ向けた。仲間たちと乱闘を起こしているというのに、全ての悪の根元は夜鷹にあると言わんばかりに、彼しか見ていない。
〈ウルっ、やめろっ〉
 ウルの足にしがみつく。ウルは転び、だが銃から手を放さなかった。グリップの部分で思い切り殴られた。痛みに呻く慧を横目に、ウルは雄叫びを上げて引き金を引いた。鋭い破裂音が鼓膜を破る勢いで響く。
 夜鷹が崩れた。
 後ろへのけぞるように、彼は膝を折った。夜鷹を取り巻いていた男たちも驚きつつ夜鷹に群れる。夜鷹を殴り、足を引きずってその場から立ち去ろうとする。道の向こうにトラックがあり、そこへ夜鷹を載せて去ろうとしている。
 それだけはなんとしても避けなければならない。
 立ち上がったウルは仲間らに近づこうとよたよたと歩き出す。夜鷹を助けなければという一心で慧は眩む頭を振る。ベルトに手をやり、そこにウエストポーチをまだ外し忘れて残っているのに気づいた。
 そこから細工の綺麗な小刀を取り出し、素早く鞘を払う。
〈やめろぉおおおお!〉
 背を向けていたウルが振り向き、拳銃を構える。高い銃声音と腹に衝撃が走るのと、手にした小刀に確かな感触を感じるのとが、同時だった。



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プロフィール
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粟津原栗子
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自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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