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 まずは設計図を描く。いつも持ち歩いている小さなクロッキー帳にアイディアスケッチだけはしてあった。それをもとに、方眼紙に線を引っ張っていく。こういう線の方が格好いいかなとか、この角度はもっと鋭角にしたいな、とか。わりと緻密に描いたそれを元に、材料を買ってくる。ホームセンターで太めの銅線を、文具屋で紙を幾種類か。それとボンド、糸や紐、糊、筆。
 設計図に描いたとおりに銅線をペンチで曲げていく。空き瓶などを使って綺麗な弧を描くように巻き付ける。形が出来たらそこに紙を貼っていく。でんぷん糊を水で溶き、筆でつけて綺麗にピンと貼れるように、慎重に作業する。羽根が出来る。何枚も、大きさを変えて作る。
 ふと思いつき、それをまた設計図にした。イメージとしては飛行船の枠組みで、銅線で大きさの違う円を作り、繋げていった。重さが気になったがさほど重量感は出なかった。円形の胴体に紙は貼らない。銅線で作った円が綺麗だと思い、それを見せたかった。
 胴体の部分に羽根を組んでいく。吊るしながら、バランスを見て羽根を取り付ける。結構没頭してしまい、何日かに分けて作業することになった。仕上げに余分についた糊を丁寧に剥がし、やすりで整え、紐をつけて、部屋に一時的に張った洗濯紐にぶら下げてみた。
 紙の色は淡いグリーンからブルーにした。透かせば影が出来て綺麗だった。触れるとゆらゆらと揺れる。我ながらいい出来だった。いつか青沼に言われたモビールが完成した。飛行船に羽根がついたような造形で、モビールというよりは模型のようだったが、青沼は気に入ってくれるように思った。
 先日、三月のはじめに卒業式が済んだ。卒業していく先輩に「これで写真撮ろうぜ」と渡されたのはインスタントカメラだった。液晶もないので仕上がりが確認できないが、そこは機材を楽しめる性分だけあって、写真部の仲間と面白い写真が撮れたと思う。まだ現像はしていない。うまい写真が撮れたら先輩たちの実家や新居に送る手筈で住所も聞きだしている。
 慈朗の中にはまだ、わだかまりがあった。青沼という人間についてこのまま素直に付きあっていていいのかどうか。それでも慈朗は青沼のあの反応が嬉しくて、こうやってモビールを作ってしまった。渡すかどうかは決めかねているが、ひとまず梱包はした。
 どうするべきなんだろうか。
 青沼が悪いのか、そうでないのか。それでも青沼の中学校時代にひとりの人間の予定未来が崩れてしまったことは確かだし、それに伴って周囲も巻き込まれたのだ。その反省があるのかないのか、ひとまず青沼と赤城の関係は表沙汰にはなっていない。誤って噂にされた慈朗だったが、時間が経てば次第に落ち着いて来た。
 三年生はもう学校には来ないが、一・二学年はまだ授業が残っている。学校に行く際に迷って、結局梱包したモビールを紙袋に詰めて持って行くことにした。青沼に見せたかった。見せて、反応が欲しかった。
 自転車のためにしっかりと防寒をして、通学路を辿る。少しずつ風はぬるみ始めている。登校して授業を受けている合間に、同級生から「進路指導室に来いって柾木先生が呼んでる」と聞かされた。青沼も呼ばれているのかなと思いつつ、放課後、進路指導室に向かう。
 青沼もいるのかと思ったが、呼ばれたのは慈朗だけだった。机の上いっぱいに紙が広げてあった。よく見ればそれは慈朗がこれまでに描いてきた鉛筆デッサンだった。
「酷いもんだな」と柾木は嫌味っぽく言った。
「二年の終わりの時点でこれだけ描けてないくせに、おまえは本当にS美目指してますって言えるのか?」
「……来月から美大予備校通う予定なんで、そしたら」
「もっと伸びるってか? 形も取れない、ハッチングの線すらまともに引けないこんな絵が」
 柾木はまた、あの人を小ばかにしているような目でじっとりと慈朗のデッサンを見るのだった。そのほとんどは放課後、美術室で美術部員に混ざって描いたものだ。柾木は美術部の顧問のくせにろくに指導をしない。だからデッサンをしている部員に教わって、見よう見まねで描いた。デッサンの基礎など知るはずもなかった。
「――S美映像科の入試情報を改めて調べた」
 そう言って柾木は面倒くさそうに分厚いファイルを取り出した。中には過去にこの学校から美大進学を目指した学生による入試情報が挟んであり、他の大学に比べればこんなファイルは情報も頼りなく薄い内容のものだった。それでも一応ある。慈朗も何度かは覗いたことがあった。だが柾木が示したのはウェブから引っ張って来たと思われる入試要項だった。「この春から出願の方法が変わる」と柾木は言う。
「国語・数学・英語の三教科の基礎テスト、加えて鉛筆デッサンの実技と、二次試験は面接か小論文。これがいままでの入試方法だった。が、来年度から入試が変わる。三教科と面接または小論文は変わらない。だが、鉛筆デッサンの実技もしくはポートフォリオの提出に変わった」
「ポートフォリオ?」
「要は自分がこれまで撮って来た写真を集めてファイリングした、自作の作品集だ。もちろん規定はあるからこれに則って作らにゃならんが、おまえの場合、実技で勝負するよりは自分の作品を提示して臨んだ方が絶対にいい。おまえ、去年、全国高校総合文化祭の写真部門に県代表で出品してるな」
 そこまで柾木が把握していたことに驚いた。驚きつつ「はい」と答えると柾木はさらにファイルの他にいくつかのカメラ雑誌を取り出した。所々に付箋が貼ってある。「一般写真雑誌のユース部門にも何度か入選している」
 柾木は雑誌をぱらぱらとめくった。確かにカメラ雑誌には何度も投稿していた。慈朗はぱちぱちと目を瞬く。


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プロフィール
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粟津原栗子
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非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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