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成人女性を対象とした自作小説を置いています。
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 歳暮の配送が済めばアルバイト自体は落ち着いた。多忙だったのが一気に暇になり、元々冬休みいっぱいという契約でもあって、冬休み最終日の前日にバイトは終わった。せっかく受け取る給料だから貯めておきたいのだが、それでも、と思って青沼にメッセージを送った。「映画観ねえ?」と誘うと、「なんの映画?」と即座に返事が来た。冬休みに合わせて公開されたアニメーション映画で、こういうのはお互いに興味があったのであっさり待ちあわせて映画を観た。
 漫画が原作の映画で、原作の方は青沼から借りて読んでいた。原作と違いいかにも「売れる」演出が鼻についたが、それでも面白かった。映画を見終わり、どこかで茶でもするか、という話になって、映画館近くのファーストフード店に入った。
 お互い腹が空いていて、バーガーだのポテトだのコーラだのを頼んだ。旺盛な食欲で平らげながらも、やはり黙っていることが気まずい。かと言って口にする勇気もない。青沼がソースで汚れた指を舐めとり、コーラを嚥下する喉元をぼんやりと眺めていた。沈黙と視線が気になるのか、青沼も「なに?」とこちらを見る。
「なんか今日は静かだな、雨森」
「あー、……うん、」
 しばらく黙った。気まずく頭の後ろを掻き、それから決心して「これ」と言ってスマートフォンの画面をかざして見せた。
 大晦日の晩、暗い中で撮った写真だった。外灯の明かりにかろうじて浮かび上がる男ふたりはかたく抱き合っている。顔までははっきりと見えないが、それが誰だか青沼にはすぐに分かった。分かって、即座にスマートフォンを操作した。画像の消去をあっさりとしてみせるので、慌ててスマートフォンを手からひったくった。
「人のスマホ勝手に操作すんなよ」
「じゃあそっちだって勝手に撮るなよな。盗撮だぞ、これ。それにこんな画像、バックアップは取ってあるんだろ、」
「……まあ、」
「……見てたのか、あの夜」
「偶然。……手袋返そうと思って追っかけて、……」
 また沈黙が出来る。やがて、ふ、と息をつき、青沼は上体を椅子の背もたれにすっかり預けてだるそうな姿勢を取った。目を閉じる。睫毛が長いな、と思った。
「どう思った?」
 と彼は聞いた。目は閉じられたままだった。
「おれと赤城先生の関係は、まあ、……これはどう見てもばればれだよな」
「……付きあってんの、」
「卒業するまではだめだって言われてる。一応、先生と生徒だから。でもそうやって言い訳してるだけだな。手は握るし、肩が触れれば抱きしめる。キスはする。……セックスは、しない。すごくしてみたいけど、しない。きっと、卒業までは」
「……」
「気持ち悪いよな」
「……衝撃は大きい」
 ふう、とまた青沼は息を吐いた。まだ顔を天井の方にぼんやりと向けたまま、「どうしたい?」と言った。
「どう?」
「友達やめるとか、これをネタに強請るとか、周囲に言いふらすとかな。安易な考えしか出てこないけど、……」
 それを言われて、自分はどうしたいんだろうとそこではじめて考えた。
 特にこれを撮ってどうこう、という思いはなかった。事実を知ったことに対する衝撃は大きかったが、それをネタにして貶めるようなことも考えてはいない。いままでどおりの付きあいが続くならそれがよかった。だがそれをするならこんな写真はさっさと消去して知らないふりをしているべきだったといまさら気付いた。
 自分の中に喜びがひとつだけある。それはこの写真を撮れたということだった。こんな光の覚束ない夜の、恋人同士の逢瀬を撮った。スマートフォンのカメラ機能でだ。撮った自分で自分を褒めるのだが、いい写真だと思う。人恋しさが切々と伝わる。
 こんなに切ない気持ちになるのは、写真の力だと思っている。自分の個人的な感情を抜きにして。
「――赤城と青沼の話が聞きたいかな」
 そう言うと、青沼は目を開けた。
「どんな経緯でこうなったのか、……あんたらふたりの話を聞いてみたい。大晦日の日にうち来て言ってたじゃん。恋愛のこと、距離置かないと自分を嫌いになるとか、相手を嫌いになるとか」
「……言ったな、」
 そうして青沼は上体を起こし、テーブルに肘をついた。
「……仕方ないもんな。駅前のあんなところで迂闊だったおれも悪い。選択肢は、ないか」
「そこまでおれが優位なわけじゃないけど」
「話すよ。けど、聞いたらきっとおまえ、おれと友達なんかしてらんなくなるぜ」
 そう言い置いて青沼は静かに語りはじめた。



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粟津原栗子
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非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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