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成人女性を対象とした自作小説を置いています。
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 玄関を出たら寒さがつきんと沁みた。「見送りはいいから、寒いし」と言うのに甘えて、玄関先で「よいお年を」と言いあって別れた。後ろ姿を見送って室内に戻る。自室へ上がって青沼が気に入って触れていたモビールを突っついていると、机の上に手袋が載せられているのを見つけた。
 グレーの地に、甲の部分に緑色の布地が縫い込まれてあった。分厚くて暖かそうだったがほつれや毛玉があったりして、つかい込まれている。これは自分のものではない、ということは、可能性はかなり限られる。念のために家族に訊くと違うという。やはり青沼が忘れて行ったものらしかった。
「どこ行くの?」と玄関先で靴を履きはじめる息子に母が問う。
「青沼の忘れ物届けてくる。自転車で行けばまだ間に合うかも」
「あ、じゃあついでにコンビニで牛乳買ってきて」
 適当に返事をしつつ、青沼のスマートフォンにコールした。応答はなかったので諦めてポケットにしまい込み、きっちり防寒をして家を出た。駅までの道はひとつ角を曲がればあとは一本道なので、すぐに見つかるだろう。自転車を漕ぎながら目を凝らしていると、駅の脇にある公園に入っていく青沼らしき人物を見つけた。
 声をかけようと思ったが、隣に誰かがいるのを見つけてとどまった。暗いのであまりはっきりしない。だがふたりが外灯の下をくぐったことではっきりした。青沼の隣にいるのは国語科の赤城だった。
(なんで赤城?)
 戸惑いつつ、近くの車止めの脇に自転車を停めて追いかける。程よく茂みになっており、近付いてもふたりがこちらに気付くことはなかった。大晦日のカウントダウンにはまだ早いせいか、あまり人がいない。ある程度まで近づくと、声もきちんと届いた。
 ――先生。
 と青沼が赤城を呼んだ。赤城はうつむいている。青沼は手を伸ばし、赤城の手を取った。
 ――手、冷たいね。
 赤城が感想を述べる。振り払ったりはしなかった。
 ――手袋、忘れて来たみたいで。……せっかく先生からもったのにね。
 ――きみが勝手に、僕のお古を持ってっただけだよ。
 ――先生、
 そしてふたりの身体の距離が近づく。音のしないよう、息を潜めながら慈朗はスマートフォンを構えていた。カメラを起動している。
 男と男の身体が触れあう。青沼は力加減というものを知らないかのように、しっかりと赤城を抱きしめた。赤城はされるがままだったが、やがておずおずと、青沼の背に手をまわし、青沼の肩に顔を埋める。
 カメラのシャッターを切る。こんなに静かな夜なのに、音にふたりは気づかない。
 ――先生。
 うわごとのように青沼は繰り返す。その度にシャッターを落とす。やがて顔が離れ、青沼の手が赤城の頬にかかる。赤城も口をあけて、舌を覗かせる。
 シャッターを切った。そしてこれ以上はもう充分だと判断して、即座にその場を離れた。


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プロフィール
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粟津原栗子
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非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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