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成人女性を対象とした自作小説を置いています。
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B.


 窓の外が鋭く発光した。光ってすぐさまけたたましい音が天から下り落ちる。元より暗かった室内がさらに暗くなった。ざあざあと雨が降りしきっている。
「――くあー、くそっ! ラン切れた!」
「ノーパソなんだから内部電源に切り替わっただろ。よかったな、データ飛ばなくて。いまのうちに保存かけてパソコンはもう作業するのやめとけよ」
「見事に停電しましたねえ」
 やんややんやと、それでもわりあいと冷静に、写真部の仲間らと言いあう。部室で暗室作業をしたり、デジタルデータをいじっている最中だった。文化祭が近い。写真部としては当然、写真の展示をするわけで、それの準備をしていたのだ。
 放課後、学校に居残って作業していた。梅雨もいよいよ本格的で、窓の外にはあじさいだけがぴんぴんと雨を喜んで咲き誇っている。薄暗くなった部室で、撤収の作業に取り掛かる。帰れと言われていますぐ帰れるような天候ではないが、今日の作業はもう進められるわけがない。
「雨森、おまえどーすんの。自転車だろ?」
「機材持ってるから無理しない。とりあえず家に電話して、迎えが無理そうならバスで帰るわ」
「どこで待ってんの、迎え。部室閉めちゃうよ?」
「進路室行く」
「あー、入試近いのか。AOだっけ?」
「あれ? 一般入試で行くんじゃなかったの?」
「柾木センセとあれこれ話して推薦受けることにしたの。自己推薦型だから倍率は高いだろうけど、決まれば早いぜ。このガッコ、推薦で大学受けようなんてやつまずいないからな。さっさと進路決めて誰よりもいちばんに車の免許取るんだ」
「張り切ってんねぇ」
「張り切るだろ。高三だぞ、コーサン」
 持っているパソコンだのカメラだの、機材を濡らさぬようにビニールをかけたりかばんに詰めたりしながら喋る。雷鳴があるうちは皆、移動は諦めている。学校にいる方が出歩くよりも安全だ。
 写真部の三学年は文化祭での展示で引退ということにしている。芸術分野での進学を希望しているのはこの中では慈朗だけだが、それでも皆好きなものなので、熱が入っていた。印刷がどうだとかパネルはどこだとかヒートンは用意してあるかとか、あれこれ言いあいながら準備を進める文化祭は楽しかった。当日はポストカードとしてプリントアウトした写真の販売もするので、細々した作業が続いている。
 一方で慈朗は受験シーズンを迎えていた。入試の方法を一般入試から自己推薦型入試に変更したのだ。柾木と担任と両親を交えあれこれ話しあった結果だった。自己推薦型入試は夏に行われる。出願が迫っていた。
 志望理由書とポートフォリオの提出、それを受けての面接が行われる。大方はいままでの実績重視だから、その辺の実績のある慈朗は行けるかもしれない、と柾木が踏んだのだ。S美は柾木の母校である。知り合いがいる、と言っていた。入試の情報も入って来やすい。
 まだポートフォリオに入れる作品をすべて決め切っていない。風景や人物など、多岐にわたる分野で有能であることを示すか、慈朗の好きな分野だけを押し出して個性を強調するか、その辺りで根を詰めて柾木と話しあった。慈朗としては後者で行きたかったが、柾木はまだ前者の可能性を探っているふうがあった。
 パッキングを終えた慈朗は、仲間に断って先に部室を出た。雷鳴は徐々に遠ざかったが今度は雨が酷いようだった。まだ停電は復旧していない。ものすごい音がしたので、どこかの電信柱にでも雷が落ちたかもしれない。学校の周辺も奇妙な静けさがあった。
 校内に入り、廊下を進む。一階の南側の奥、職員室からは最も遠いところに据えられたのが進路指導室だった。進路室が通称で、出入りは自由だ。隣に面談用の部屋があり、中はパーテーションで二つに区切られている。その奥に進路指導準備室があり、柾木は美術室よりもそちらに詰めていることの方が多かった。
 他の学生よりも受験の時期が早いため、柾木とじっくり話せることがいいなと思っている。去年は柾木の存在など全く意識していなかったし、進路指導の初っ端は、柾木のことなど気に食わなかった。それが実際進路の時期を迎えてみればこうして柾木を頼りにしているのだから不思議なものだと思う。
「……あんたの方だろ、向いてるのは」
 ばらばらとコンクリートを叩きつける豪雨の音に紛れて呟いてみる。いつかモビールを見せた日、柾木は慈朗の希望する進路についてそうコメントしたが、それは柾木に対してこそ思う。学生と線を引いているからか、はじめは取っつきにくい。けれどこちらが真剣になればなるほど向こうもきちんと誠意を見せる。熱くなりすぎない、冷静な判断で生徒のモチベーションをさらっと上げる。青沼の話では柾木は「生活のために」美術教諭の道を選択したそうだが、どうだか、柾木には教師の素質があるように思う。
 進路指導室への廊下を歩いているところで、パッと視界が明るくなった。唐突な眩しさに目を細める。停電が復旧したのだ。雨はまだ降るのかなと思案していると廊下の向こうから歩いてくる影を認めた。青沼だった。
「雨森」と彼は親しく手を挙げた。


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プロフィール
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粟津原栗子
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非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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