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成人女性を対象とした自作小説を置いています。
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 池田とは大学の同期だった。染織クラスだった羽村と、陶芸クラスだった池田は、クラス合同ガイダンスで席を隣にして以降、親しかった。染織クラスは男子率が極端に低かったので、池田は貴重な同性の知り合いのひとりだった。
 池田の真っ直ぐで物怖じしない、大胆な性格をいいなと思った。その頃の羽村は自分の性癖にうすうす気づいていて、気づかないふりをしていた。異性を異性として見ること、同性を同性として見ることを、自らに課していた。自由なはずの大学生活は実は苦しみの連続で、ちっとも楽しくなかった。大学はろくに通わなくなった。
 大学に来なくなった羽村を心配したのは、池田だった。クラスがちがっても気にかけてくれていたのだから、池田は実に情に厚い男だった。羽村の暮らす安アパートに連日押しかけて、羽村が応答しなければ、ドアの向こうから「また来るから」と言って去る。ドアノブに土産がかかっている日もあった。それは池田が面白いと思った授業のノートだったり、手遊びにどうぞという意味の樹脂粘土だったり、食堂限定で売られるゼリーだったり、色々だった。
 そこまで毎日されると、池田を家に引き入れる気になった。悩みを話しても池田にだったら大丈夫なんじゃないか、という期待も持てた。池田は案の定というか、飄々に、しかし真剣に、羽村の悩みを聞いてくれた。おれ、男が好きなんだ。多分、女性が異性に求めるみたいに、男を求めてるんだ。狂ってるよな、おかしいよな。……そんな台詞を泣きながら口にした。
 池田は一言も喋らなかった。赤い斜陽が池田のくっきりとした輪郭をさらに濃く浮かび上がらせたが、羽村は気まずくてずっと下を向いており、それを見ることは出来なかった。
――なんで悩むの。そんだけはっきりしてたらなんにも問題ないじゃん、べつに。
 きっぱりと、池田はそう言った。怖くて、羽村はまだ顔を上げられない。
――男が好きなら好きで、大学休む理由になんかならねえよ。俺はあの大学入って、楽しいことばっかりで仕方がない。耀も来いよ、楽しいから。
 羽村のことを名前で呼び捨てにするのは、後にも先にも池田しかいなかった。名を呼ばれる心地よさに加え、池田の台詞から、なにかとんでもなく神々しいものを前にしているような気持ちになった。太陽を直視できない、あの眠たいような痛み。羽村が黙ったままでいると、たとえば、と言って、池田はカバンからノートを一冊取り出した。そのまま、大学の講義で習ったことを、読み上げる。
――芸術は、見えるものを再現するのではない。芸術は、見えるようにするのだ。
――……誰の言葉?
――パウル・クレー。
――池田は芸術家になりたいのか?
――いや、陶芸家になりたい。日常に溶け込む美。つかっても眺めても美しい、そういう器をつくりたい。うつくしく洗練された器を日常でつかう、っていう芸術行為だ。これさ、絵画クラスの連中に言うとあんまり理解してくんないんだけど、耀は、わかるだろ。
――……難しいことは、わからない。
――耀はなんで染織クラスを選んだんだ?
――単純に、布が好きなんだよ。色も模様も綺麗だろ。それを身にまとう、ってことが。
――そうそう、ほら耀は分かってくれる。
 対話は、楽しかった。池田と話しているうちに、確かにどうでもよくなっていた。男が好きだとか、求めているだとか。それよりも池田のいう楽しいことが大学にあるのなら、そこに身を浸したいと思った。こんな風に、だれかと話して、作って、活動することを楽しみとしたい。
――な、大学へ来いよ、耀。俺と楽しいことをしよう。
 そう言った池田の顔は、羽村がすでに大学へ行きたいと思っていることを見通している、余裕の笑みだった。太い眉が中心へ寄り、目が細められ、口角がくっと上がる、その顔を本当に好きだと思った。ああこいつが好きだな、好きだ、好きだ。だから羽村は、大学へ行くことに決めた。池田が誘うから。少しでも池田の傍にいたいから。
 池田とはその後、様々なことをして精力的に活動した。文化祭で糸と陶器を使ったインスタレーションを発表する、といった芸術的なことをしてみれば、女子に教わりながらTシャツに色とりどりの刺繍をほどこす、なんてかわいい手芸にいそしむ機会もあった。視線が向けば、様々なことをした。旅行に出かける、絵画クラスのモデルのバイトを引き受ける、鋳造技法を用いて本物のシルバースプーンを作ってみる、テンペラ画を描いてみる。
 池田とするなにもかもが楽しかった。それは池田自身が豊かな発想力を持つからだし、行動力があるからだし、技術もあるからだった。そういう魅力ある人間に、惹かれない方が無理だった。学年が上がるにつれて池田の才能は爆発し、周囲には人が群がった。それでも池田の第一の友人として傍にいられることを、羽村は誇りにさえ思った。
 告白をしようとは思わなかった。池田はその裏で実に奔放に、女と遊んだ。とっかえひっかえに近かった。ただ、中でも、芸術教養学部に通う野島という女子生徒とは長く続いた。野島は美術史専攻の理論系だったが、三人で活動する時間も増えた。
 四年になり、進路を決める時期が迫っていた。その頃羽村は織物の職人になりたいと思い、染織工場の面接を受け、結果を待っているところだった。池田はどうするのか。訊くと、「まず、結婚する」と言った。
 ――いつかやって来る未来だと分かっていたことだとしても、少し早すぎた。心構えの出来ていない心臓は、氷の杭を打ち込まれたように冷え込む。
「……ノジマと?」
「そう。あいつはもう就職が決まってるし、俺は陶芸家以外の道を考えていない。これから先、俺たちの道は決まってんだ。早く結婚してガキつくる気かってそういうんじゃないけど、つくらなくても、結婚しない理由もないんじゃないかって」
「……ちょっと決めるの、早くない?」
「早いことが悪いことだとは言えない。遅いことが悪いことだとも言えねえけど」
「……そか」
 失恋は端から確定していた。恋心を伝えようか伝えまいかは、迷わなかった。言ってどうする。心に仕舞い込むことに決めた。
 羽村は恋がしたかった。好きだと臆面なく言えて、言われたい。それは池田とは叶わなかった。じゃあいい。池田じゃない誰かと恋をする。
 同時に、自分はもう、池田以上に好きになれる人間には出会わない、と確信していた。それだけ池田の魅力は強烈だった。女であるという理由で、池田と生涯を添える野島が憎い。ずるいずるい、ひどい。この時ほど女に生まれなおしたい気もちったら、なかった。
 田舎町の染織工場という就職希望は、ちょうど良かったのかもしれない。もう、池田と離れるべき時期だった。これ以上ともにいたら、羽村は壊れた。
 一緒に楽しいことをしよう、と手を伸ばしてくれた池田を忘れない。恋に終止符を打ち、羽村は大学を卒業した。


 池田の神がかった再出現は、羽村を困惑させ、落ち込ませた。やはり来なければ良かった。帰ろうかな、という方へ心が傾く。思い切って駅へ向かった道すがら、街道の交差点で一台のタクシーが羽村の傍へ停まった。ウインドウが降り、「ハネちゃん!」と懐かしい呼び名を叫ばれる。
 髪型も化粧も変わっていたが、すぐ分かる、野島あゆみだった。「来てくれたんでしょ? そっち逆方向よ」と屈託なく笑われ、羽村は分からぬようそっと舌打ちする。
「一緒に乗ってかない? 時間は早いけど、会場準備があるの」
「要するに、人手がほしー、手伝ってー、って、ことなんだろー」
「そうそう、当たり。ハネちゃんのその喋り方変わんなくて安心する」
 タクシーの扉がひらき、羽村は野島の隣へ乗り込んだ。しばらく無言。しかし野島の方から、「会場準備は池田も手伝ってくれるの、もう来てるわ」と言った。
 池田、と言った。同じ池田姓のはずの野島がそう言うのは、堅苦しすぎる。それに大学時代は池田のことを「シロちゃん」と呼んでいた。違和感は、背筋がぞくぞくするほどだった。
「――離婚したの。去年の夏に」
 野島から言った。羽村は頷く。
「なるほどねー」
「あら、野次馬根性でレセプションに呼ばれたんじゃなかったの?」茶化す口調で野島が言う。ははは、と羽村も茶化して笑う。
「どして別れたの」
「べつに、大した理由はないわ。むしろよくもった方だと思う。単純に、飽きたのよ。私も、池田も、夫婦生活っていうやつに。飽きはどのカップルにも訪れるものだと思うけど、それを乗り越えるだけのこらえ性でもなかったんだわ。子どももいなかったしね」
 誰かと暮らしたことのない羽村からすれば、さっぱり分からない理由だったが、世の中の男女にはありうる理由のようだった。飽きたか。飽きたんなら、おれにちょうだいよ。喉元まで出かかった台詞は、しかし、まだそんなことを思う自分を笑う自分によって、発声されなかった。
 タクシーは先ほど羽村が逃げた建物の前でゆるやかにブレーキをかけ、停車した。「お客様に準備手伝ってもらうんだからさあ」と言って、タクシー代は野島が支払った。ガラス張りのホワイト・キューブの中に、池田の姿はなかった。ただ、入口に置かれた木製のシンプルな机の上に、池田が抱いていたカラーの花束が置いてあった。
『三俣画廊さんから届いた花束。急用、ちょっと出てる。池田』
 と、メモも添えてある。花束を見た野島は、「留守を頼んだのに、つかえない人」と言った。いかにも過去連れ添った男女であることを誇らしげに示すように、慣れた言い方で。
 ひどく腹が立ち、ただひたすらに帰りたかった。始まる前から頭痛がする。
「――作品はまだ置かないんだー?」
 と、羽村の方から話題を振った。
「そこの衝立の裏にまわれば、展示してあるわ。そっちがメインフロアなの。今日、エントランスにはたくさん花を置くつもり。もうじき花屋さんが来るし、あとはケータリングと、座席の設営と、」
 と、指折りながら今日の手順を聞かせてくれた。ひとまず花屋待ちだというから、メインフロアの展示を先に見せてもらうことにした。土色の温かみある小さな油彩画や、引っかき傷の連続みたいなリトグラフ、あるいは日常でつかう器の類が、野島のセンスで品よく並べられていた。
(……池田のだ)
 そこにはやはりというか、当然のように、池田の作品も置かれていた。年月を経て熟成しても、一目でわかる作風。煮詰めたミルクのようにこっくりと濃厚な白色の、つるりと滑らかな陶器。茶器のセット、酒器のセット、大きさの違う角皿などが、規格品のように整然と並べられている。
 ホワイト・キューブの中の白は、白に同化せず、かえって微細な色の違いを、羽村に知らせた。おそらく池田が狙っていることだろうなと察しがついて、悔しくなる。器ひとつで人を感動させられる人生とは、いったいどんなものなのか。池田に聞いてみたくて、知りたくて、会って話すのは怖い。
 陶器の四角い小箱が置いてあった。手のひらに収まる大きさで、はめ込み式のものだ。かたちとしては、指輪の箱、あれに似ている。横にはやはり陶器で出来たリングが大きさを変えてみっつ並んでいたから、意図を読むために、箱をひらいた。
 中には白い綿が敷き詰められていて、中央には、陶器のリングがつるりと収まっていた。女性向けか男性向けか知らないが、アクセサリーの制作にまで手を出していたことに驚いた。そういえば大学の頃、二人で陶器のブローチをつくったことがある。石膏型に粘土を押し込んで、あたかもカメオの風に。あれはなかなか風合いが良く、文化祭で店を出したら結構売れて、気に入ったから羽村もひとつ買い取った。そういう思い出。
 誰に向けたものだろう。サイズとしては、男女どちらもあるようだった。ただ銀の指輪が陶に変わっただけのシンプルさだが、その銀にはない白い質感に、かえって心惹かれる。箱の中から指輪をつまみあげると、羽村はそれを自分の左手の薬指に、はめこんでみた。
 最初から羽村のためにあったかのように、ぴたりとはまる。
 ――はは。
 むなしくなって、心の中で笑った。これで結婚してください、と言われてみたい。池田から。池田に会いたい。顔が見たい、声が聞きたい。
 羽村の願いを聞き入れるかのように、入口側から男女の声が届いて来た。
「――どこ歩いてたのよ」
「いや、人を追っかけて……誰か来てる?」
「うん、ハネちゃん」
「……まじで?」
 心臓がばくん、と鳴った。池田が戻ってきたのだ。慌てて指輪を外そうとするが、焦っているせいか、抜けない。どうしても指の第二関節で引っかかる。そうだ、洗面台へ行って――しかし池田の出現に、まにあわなかった。
 衝立から顔を覗かせた池田は、堂々たる足取りで、フロアを横切ってやって来る。
「――耀、」
 久しぶりに呼ばれる名前に、背筋がぞくりと唸って鳥肌が立った。
「……どうもご無沙汰、」
「なにやってんだ? さっき、急に走り出したりして」
「いやー、道の向こうにかわいいネコがいてー……」
「はあ? 意味わかんね」
 とっさに後ろにまわした手、池田にばれぬよう懸命に指輪を外そうと試みる。それはかえって怪しい動きで、もぞもぞと身体をくねらす羽村に、池田は「どっか痒いの?」と訊いた。そういえば超鈍感だったなこいつ。野生の勘は変に鋭いのに、人の心の機微には疎かった。
「背中? かいてやろうか」
「――いや」
「すいませーん」
 と、入口から声がした。「フラワーショップ滝沢ですー」と男の声がする。花屋が到着したらしかった。はあいご苦労様です、と野島の声も聞こえる。
「――手伝ってやんなきゃだ」
「ああ、うん」
 そう言って、池田に先に行くよう促す。
 前を歩く池田の後ろ姿を見て、懐かしさに、ぐっと胸が痞えた。短い髪の、まるい後頭部、筋肉質の背中、伸びる太い腕。これに焦がれて後を追っていた大学生時代。太陽のような池田。


 オープニング・レセプションには、懐かしい顔ぶれも知らない顔ぶれも、総勢で三十名ほど集まった。エントランスの花は豪華に目を惹き、立食式のパーティーは、なかなかに賑やかだった。業者が据え付けた借り物の椅子に、シャンパングラスだけを持って座り込む。疲れていてなにも食べる気がしない。
 池田はあの恰好のままレセプションに参加した。主役の野島を差し置いて、池田の人気ときたらなかった。すぐに人の輪が出来て、羽村など簡単に締め出される。かえってひとりになれて良かったのかもしれなかった。指輪はまだ、羽村の左手薬指にはまっている。
 先ほど野島にこっそりと「抜けなくなっちゃったから買い取る」と申し出ると、野島は「高いわよ」と言いつつも、本来の値段の六掛けで羽村に指輪を譲ってくれた。だからこれはもう、羽村のものだ。今夜このまま池田にさえばれなければ、一生これをはめて暮らすのもいいのかもな、と思っていた。もう羽村には、あたらしい恋をしようとか、愛されたいとか、思う気力もない。叶わない初恋は、ひとりで生きてゆくのに十分なだけの質量で、羽村の胸に存在している。
 白い指輪は、羽村によく似合った。この指でシャンパングラスのステアを持つと、自分の指が繊細な装飾品にでもなったようで、気分がよかった。こくりこくりと、すっぱい琥珀色の液体を口に含む。前を向いても天井を向いても、どこもかしこも白い壁。
 ふう、とため息をついたのと、左隣の椅子がどかりと軋むのが同時だった。座ったのは、池田だった。池田がいたはずの輪はいつの間にか少人数に分かれ、それぞれが食事やお喋りやギャラリー鑑賞を楽しんでいる。
「――おす」
「……おす」
 池田もまた大きく息をついて、上体を前に倒した。膝の上に肘をつく格好で、羽村を覗き込む。
 その目は羽村の左指に注がれていた。あ、やばい、と思った。
「作品のお買い上げ、誠にありがとうございました」
「……どうも、」
 話したのは、野島に決まっていた。言うなとは言わなかったけど、せめて会が終わってからの報告でも良かったはずだ。
「いいだろう、その指輪」と池田は言った。
「陶製でこれだけ細い指輪って珍しいなー。割れない?」
 平常を心掛ける。なんでもない風に。なんでもない風に。
「セラミックだから、そんなに無理にしなければ。陶で出来たゆびぬきってあんじゃん。ちょっと前にフィンランド旅行したらあちこちに売っててさ。あ、陶製の指輪ってアリなのかってひらめいた」
「いい出来だよ」
 こうなったらもう、と腹をくくり、左手を目の前にかざして見せる。
「シンプルだから、毎日つけてられる感じ」
「耀、いまなにやってんだ?」
「んー、古着屋の店長」
「へえ。ならはめててもいいな」
「そうそう。もう、染め織ったりはしないからさー」
 染液に手を浸すことも、繊細な力加減で機を織ったりすることもしなくなった。十代から二十代はじめの頃あんなに執着した事柄を、手放しても生きていられる。作業をしなくなった手はいま、気色悪いぐらいに綺麗だ。このまま池田の陶器と同化しちゃえばいいなと思う。
「それ、俺の指のサイズ」
 唐突にそう言って、池田もまた、羽村の左手の隣に、右手を突き出した。広げて見せられた手指は無骨で男臭く、しかし土を触るせいなのか思いのほかなめらかだった。
「って言っても焼成前のサイズだから、縮んじゃったんだけど。耀は相変わらず、指が細いな」
「女みてーとか、言うなよー」
「言わねえよ。思わねえし。男でも女でもなんでも、耀は耀だろ」
 さらりと言ってのけた台詞に、羽村はびっくりした。とっさに見た池田の顔は、自信満々の笑みだった。あの頃と変わらない、光の人。言葉までまっすぐに、羽村を打つ。
 大昔、野島を呪ったことを悔やんだ。女だから愛されていいなと思ったが、きっと池田はそんなことなど関係なく誰でも愛せる人だ。ただ羽村が恋心を隠したから、池田にもその選択肢がなかった。いまはどうだろう。目の前で笑っている人に、すがりつきたい。
 耀は耀だろ、と言ってくれる人だ。
 泣きたい。
「いけだあー」
 目の前にかざされた手をつかんで、膝の上に載せる。力加減を誤って震えている。
「なんだよ」
 池田は嫌がらず、むしろ笑っている。
「すきだよー……」
「ああ」
「ずっとさー、すきだったんだよー」
 首をゆっくりと折って、うなだれる。膝の上の右手は逃げない。と、羽村の下からいなくなり、続いて左手を今度は上から力強く、握ってくれた。
「知ってた」
「うん……」
「耀、また楽しいこと、しようぜ」
 顔があげられない。まただ。いつだっていつまでだって、池田は羽村の太陽として燦々とかがやく。
「俺と一緒に、楽しいことをしよう」
 ただ無言で、言葉に頷いた。白い箱を出て、先にあるのは陽に照らされたあかるい道だ。


End.


前編



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konさま(拍手コメント)
いつもありがとうございます。
そしてあわわ凡ミス!直しました!ご指摘ありがとうございます~
一人でやっているとどうしても……できるだけミスはないように心がけているのですが……。本当に助かります。

ところで池田くんってさらっとひどい人だと私は思っています。でもこういうところも魅力で、ひっくるめて「太陽の人」なんでしょう。konさんの仰る通り、芸術家脳の人です。
離婚後に告白に答えたり、「また楽しいことをしよう」だなんて曖昧な言葉で締めくくったり、自由奔放で羽村くんはこれからも振り回されるのかと。これから先の受け止め方はそれぞれにお任せいたしますが、今回の事で羽村くんは少なくとも前進しました。透馬くんを食った時の押しの強さ(笑)で恋愛してほしいと思います。

ご指摘、本当に感謝です。またコメントもありがとうございました!
粟津原栗子 2014/05/22(Thu)07:25:05 編集
ellyさま(拍手コメント)
いつもありがとうございます。
これから先の羽村くんが両想いで超幸せ!とか限らないのですが(むしろ大変そう)、胸の中に仕舞い込んだ思いを吐き出せただけでもずいぶんな前進だと思うのです。羽村くん、大人になってよかったな、と思います。
文中、出てくる引用はそのまんまです(笑)私も染織とか陶芸とかしたいわーという気持ちです。羽村くん、楽しかったんだろうなあ。

拍手・コメント、ありがとうございました!
粟津原栗子 2014/05/22(Thu)07:29:15 編集
ねこさま(拍手コメント)
いつもありがとうございます。
今回のお話、私の趣味全開、どうかなーと思っていたんですが、楽しんでいただけて何よりです。よかった!
必ずしもすっきりとしたハッピーエンド、というわけではないのですが、羽村くんの前進が私は嬉しかったりします。そんなお話でした。
拍手・コメントありがとうございました!
粟津原栗子 2014/05/22(Thu)07:32:16 編集
無題
時間軸としては、透馬くんが卒業して綾の家を離れた少しあとのことになるのでしょうか? 羽村さん、この再会の後仕事を変わって、綾の家の隣から引っ越していったのでしょうね。

私の中で、「謎の人物・羽村さん」が「カワイイ羽村くん」に変わりました。
Bei 2014/05/22(Thu)09:03:05 編集
Re:Beiさま
いつもありがとうございます。

>時間軸としては、透馬くんが卒業して綾の家を離れた少しあとのことになるのでしょうか? 羽村さん、この再会の後仕事を変わって、綾の家の隣から引っ越していったのでしょうね。

説明が足りないかなと承知しつつ、想像力に任せてしまっていいかな、という甘えもあって断定した表現をしませんでした。が、ちょっと分かりにくかったですね。
時間軸は、現在、瑛佑くんと付き合っている透馬くん、と時を同じくする羽村さんです。
染織工場の仕事は、透馬くんと付き合っていた直後に辞めて、引っ越しています。その後色々あった、という設定で、そして現在の職業(古着屋の店長)に就いた、という感じでしょうか。
もうちょっと詳細を書けばよかったですね。表現って難しいです(ーー;)

>私の中で、「謎の人物・羽村さん」が「カワイイ羽村くん」に変わりました。

これ、嬉しいですw ただ透馬くんをむさぼり食ってた羽村さんじゃないんですよー、というw
こうやって人物の詳細に迫れるのが、長編小説の美味しいところかなと思います。ようやく羽村さんの話まで書けて楽しかったのでした。
コメント、ありがとうございました!

栗子
【2014/05/22 19:44】
みふゆさま(拍手コメント)
いつもありがとうございます。
白が目に染みた、というコメントが嬉しかったです。そうです、白です。同じ白でも微妙な色の違いを書きたかったので、感じとって頂けたようで、とても嬉しいですw
染織は一時期はまってやっていました。草木染程度なら、今でもたまにやります。染物も、織物も、奥が深いですね。息子さん、充実されているのではないでしょうか?(^◇^)
ぜひ、作品をご覧になってほしいと思います。私も見てみたいですw 
そして陶芸家池田くんを書いて、陶芸をやってみたくなっている私です。芸術っていったいどこまであるんでしょうね。笑
羽村くんの話、マイナーすぎて誰も求めていないんじゃないかと思っていたので、感動して頂ける方がいて、本当によかったです。
ありがとうございました!
粟津原栗子 2014/05/22(Thu)19:53:21 編集
Re:Beiさま
>染織工場の仕事は、透馬くんと付き合っていた直後に辞めて、引っ越しています。その後色々あった、という設定で、そして現在の職業(古着屋の店長)に就いた、という感じでしょうか。
>もうちょっと詳細を書けばよかったですね。表現って難しいです(ーー;)

いえいえいえ、キューブの話を読んで、羽村さんのことが気になって確認しただけで、詳細は不要ですよ~。時間軸はきっちり理解できましたよ~。
というか、この短編だけで考えるなら、いろいろ書き込むと話の良さやテンポが崩れてしまうと思うので、詳細はなくて良いのだと思います。

スピンオフ作品は「本編のいつごろにあたるか?」を考えながら読むので、あまり詳細に書いてない描写のなかから想像していく楽しさがあります。登場人物の別の面が見えて、世界が広がっていくような面白さも味わえて、大好きです。オイシイです。

ブログ小説のありがたさで、ちょっと質問しちゃっただけですので、気になさらないでくださいね。でも、正解を気軽に教えてくださるったので、「当たり!」という爽快さまで味あわせていただけて、嬉しいです。
Bei 2014/05/23(Fri)11:48:06 編集
Re:Re:Beiさま
いつもありがとうございます。

>>染織工場の仕事は、透馬くんと付き合っていた直後に辞めて、引っ越しています。その後色々あった、という設定で、そして現在の職業(古着屋の店長)に就いた、という感じでしょうか。
>>もうちょっと詳細を書けばよかったですね。表現って難しいです(ーー;)
>
>いえいえいえ、キューブの話を読んで、羽村さんのことが気になって確認しただけで、詳細は不要ですよ~。時間軸はきっちり理解できましたよ~。
>というか、この短編だけで考えるなら、いろいろ書き込むと話の良さやテンポが崩れてしまうと思うので、詳細はなくて良いのだと思います。
>スピンオフ作品は「本編のいつごろにあたるか?」を考えながら読むので、あまり詳細に書いてない描写のなかから想像していく楽しさがあります。登場人物の別の面が見えて、世界が広がっていくような面白さも味わえて、大好きです。オイシイです。
>ブログ小説のありがたさで、ちょっと質問しちゃっただけですので、気になさらないでくださいね。でも、正解を気軽に教えてくださるったので、「当たり!」という爽快さまで味あわせていただけて、嬉しいです。

良かったです。説明足りないせいでただ頭を悩ますだけの短編になっていたらどうしよう、と思いました(笑)
本編の飄々としていた羽村くんとはまた受ける印象が違うでしょうか。スピンオフの楽しみといえばもうBeiさんがおっしゃる通りで、新しい一面を書けるかと思うと私もわくわくします。羽村くんに関しては、ようやく人柄に輪郭がついた、という感じです。
本編でのらくらしていた羽村くんと合わせて、何度も楽しんでいただけたら、と思います。

コメントありがとうございました!

【2014/05/23 21:54】
ゆりさま(拍手コメント)
読んでくださってありがとうございます。
幸福感、と仰って頂けると、羽村くん本当によかったなあという気持ちでいっぱいになります。今回のラストが完璧なハッピーエンドとは言いにくいのですが、それでも「良かったなあ」です。
羽村くん、指輪を外さずに済む生活が待ち受けていますね。それも彼の「しあわせ」です。
拍手・コメント嬉しかったですwありがとうございました!
粟津原栗子 2014/05/25(Sun)08:20:37 編集
fumiさま(拍手コメント)
いつもありがとうございます。
普段書くものよりも丁寧で細かい表現を心がけたおかげでうっかり長くなってしまい、これ読む方は大変なんじゃ…という懸念がありましたが、心配無用だったようで。何度も読み返してくださったとのこと、非常に嬉しいですw
fumiさんのコメントを読んで、物語を読むこと、書くことの妙を改めて知らされたように思います。おっしゃる通り、時間を変えるのは一行で済むのですが、そこには主人公たちのかけがえのない時間が存在しますね。それを忘れちゃいけないな、と思い直しました。気が引き締まります。
このお話も受け止め方は読み手の方それぞれに任せてあって、池田くんとの再会で前進したかと言えばそうでもないし、でも確かに羽村くんは一歩踏み出したし、です。明るいけど切ない、とはその通りかもしれません。
次回の更新は6月を予定しております。また遊びにいらしてくださいね。
拍手・コメント、ありがとうございました!
粟津原栗子 2014/05/28(Wed)08:51:18 編集
プロフィール
HN:
粟津原栗子
性別:
非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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