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「そんなの今までやってなかったじゃん。和菓子屋に関係ないだろ」
「同じ菓子屋のイベントならまったくの無関係でもないだろ。……駅向こうにデパートが出来て、だいぶ客足を取られてる。うちもちょっとは珍しいことをしないと潰れる。商店街の『ジュリア』さんと組んで、バレンタイン用の菓子を作ったんだよ。コラボとか、タイアップとか、知らんけどそういうやつ」
「……バレンタイン」
「ジュリア」さん、といえば、「しだ屋」と反対側にある、同じ商店街の洋菓子屋だ。よくよく売り場を見てみれば、和菓子と洋菓子のコラボレーション、という説明書きや地元新聞社の取材記事の切り抜きがぺたりと貼ってある。
立ち上がり、チョコレートが3つ入った箱をひとつ手に取って、眺めてみる。抹茶ときなこが使われていたり、中にさくらが練りこまれていたりするらしい。案外繊細な作りに、ああ、あっちゃんだ、と安心する。
じゃあ、金髪はなんだ?
再びあっちゃんを眺める。上から下まで、変わったところはないか。正月に会った時は俺好みのさっぱりした黒髪だった。他は変わっていない。髪の色だけが、あっちゃんに似合わない。これでおかしく髭でも生やされたら、俺は発狂する。
「――なんだよ」あっちゃんが睨み返してきた。
「チョコは分かった。で、髪――」
「――あ、いらっしゃいませ」
絶妙のタイミングで客が来店し、会話は中断せざるを得なくなった。母親とその娘高校生、といったところか。大福を5つとチョコレートを3箱買って行った。値段も手ごろ、目新しければ確かに買うかもしれない。
客は続いた。誰かが入っていると引き寄せられるものだ。肝心のことを聞けなくて、ますますいらつく。ようやく途切れ、客がガラス扉を閉めると同時に俺は「その金髪!」と叫んだ。
「なんで染めちゃったんだよ、まさかあっちゃん、恋人出来たとか」
「ふっざけんなおまえのせいだよ!」
俺の数倍も大きな声であっちゃんは返事をした。声の大きさにびっくりする。それ、そういう声は野球チームでしか聞いたことなかった。
俺、金髪を推奨するようななんか、したか?
あっちゃんは重たくため息をついた。
「正月に帰省して飲んだ時、おまえが言ったんだろ。『あっちゃんは昔からほんとに変わんないよなぁ、髪型いっつもおんなじで』って。ばかにしただろ、あれ。人のコンプレックス刺激しやがって、むかついた」
「……知らない、覚えがない」
「覚えてろ、ばか。言われた方は根が深いんだからな」
「……ごめん。でもそれ本当に言ったとしても、絶対にばかにしたわけじゃない」
「だから本当に言ったんだよ!」
相当に怒っている。酒の席なら、何を言ったか覚えがないのは仕方がない。特にあっちゃんと飲むのは楽しいから、心から安らいで深酒することが多い。ああでも言ったかもしれない。安心する、という肝心の言葉だけ言っていないか、聞こえていない。
「……でもそしたらあっちゃん、恋人が出来たわけじゃないよな?」
「しつこいな。おまえの言葉が癪に障ってやっただけだよ」
「おじさん、なんにも言わなかった? おばさんは普通だったけど」
「別に……『なんで染めた』って言われて、『ちょっと反抗してみたかった』って言ったら、ふうん、って、黙った」
「……あ、そう」
昔からいい子で真面目だから、こういうことにも黙ってるのか、と察しがついた。でも辺りで噂にはなっていそうだ。なんて言っても、ここは商店街だ。おばちゃんたちはなんでも話題にしたい。憶測から来る噂話はメールの一斉送信よりも早く駆け巡る。
金髪の理由もすべて判明して、怒らせたことにがっかりしつつもほっとする。あっちゃんは「お前はどうなんだよ」と言った。何が? 金髪? 俺はちょっと明るくしちゃいるけど、そこまではしない。会社員なので。
「えっ、髪?」
「ちげえ! 恋人だ。いい人、いんのか」
「……、や、なんで?」
「大学卒業したらこっち戻ってくるって言って、戻ってこねえ。そのうち戻るって言って、まだ戻らねえ。今年もだろ」
「あ、それは……」
「それってやっぱ、あっちにそういうやついるからだろ。……あのな澄人、俺は跡継ぎだから、嫁さんもらわなきゃなんない。そろそろ見合いや婚活を考えろって、せっつかれた」
どくっと心臓が冷え込んだ。いままさに考えていたことだ。あっちゃんは今年で28歳、そういうことになっていたか! と、「しだ屋」の内部情報を探り切れなかったことを後悔する。
「変わんないのは無理だ」と言われた。
「嫌だ。あっちゃんはだめだ。だめ」
「おまえ昔っからそうだろ。俺の情報は収集して、逐一『だめだ』とか『嫌だ』とか干渉してくるくせに、てめえは自由なんだ。出て行ったっきり帰ってこねえし、自分のことは喋らないし、……恋人とかそういうの、自分のことは棚に上げて、俺には『作るな』とか、言うし」
「違う、あっちゃん」
「違わねえだろ! どーすんだよ、……おまえはどうせとっくに童貞とか卒業してんだろ。俺なんかいまだに誰も知らなくて、……おまえが酔っぱらった時にする変なキスとか、あれだけで、……女だめなまんま、一生独身で童貞だったらどーすんだよ」
あっちゃんの声が萎む。ちょっと湿っぽい。鼻にかかった喋り方と告白に、急に喉が干上がる。
確かに遊んだ奴はいる。自分のことは棚に上げて、あっちゃんに恋人が出来ないようにけん制したりもした。俺はあっちゃんが大好きで、本気で好きで、だから長期の作戦を練りこんでいた。ゆくゆくは戻って来るつもりで、こっちに本社のある会社を選んだ。ちゃんと稼ぎ、どう言ってあっちゃんのおじさんおばさんを説得し、あっちゃんを口説くか。真面目なあっちゃんの人生丸ごとそっくり欲しい。だから慎重に確実に。これが俺の計画だ。
嫁さんなんか絶対にだめだ。誰かのものになんかなっちゃだめだ。
「――俺、4月からこっち戻るんだよ」
肝心の台詞を俺は口にする。今日はこれを報告するために帰って来たのだ。そっぽを向いていたあっちゃんは、一瞬止まって、ぱっと顔をあげた。
←前編
→後編
「同じ菓子屋のイベントならまったくの無関係でもないだろ。……駅向こうにデパートが出来て、だいぶ客足を取られてる。うちもちょっとは珍しいことをしないと潰れる。商店街の『ジュリア』さんと組んで、バレンタイン用の菓子を作ったんだよ。コラボとか、タイアップとか、知らんけどそういうやつ」
「……バレンタイン」
「ジュリア」さん、といえば、「しだ屋」と反対側にある、同じ商店街の洋菓子屋だ。よくよく売り場を見てみれば、和菓子と洋菓子のコラボレーション、という説明書きや地元新聞社の取材記事の切り抜きがぺたりと貼ってある。
立ち上がり、チョコレートが3つ入った箱をひとつ手に取って、眺めてみる。抹茶ときなこが使われていたり、中にさくらが練りこまれていたりするらしい。案外繊細な作りに、ああ、あっちゃんだ、と安心する。
じゃあ、金髪はなんだ?
再びあっちゃんを眺める。上から下まで、変わったところはないか。正月に会った時は俺好みのさっぱりした黒髪だった。他は変わっていない。髪の色だけが、あっちゃんに似合わない。これでおかしく髭でも生やされたら、俺は発狂する。
「――なんだよ」あっちゃんが睨み返してきた。
「チョコは分かった。で、髪――」
「――あ、いらっしゃいませ」
絶妙のタイミングで客が来店し、会話は中断せざるを得なくなった。母親とその娘高校生、といったところか。大福を5つとチョコレートを3箱買って行った。値段も手ごろ、目新しければ確かに買うかもしれない。
客は続いた。誰かが入っていると引き寄せられるものだ。肝心のことを聞けなくて、ますますいらつく。ようやく途切れ、客がガラス扉を閉めると同時に俺は「その金髪!」と叫んだ。
「なんで染めちゃったんだよ、まさかあっちゃん、恋人出来たとか」
「ふっざけんなおまえのせいだよ!」
俺の数倍も大きな声であっちゃんは返事をした。声の大きさにびっくりする。それ、そういう声は野球チームでしか聞いたことなかった。
俺、金髪を推奨するようななんか、したか?
あっちゃんは重たくため息をついた。
「正月に帰省して飲んだ時、おまえが言ったんだろ。『あっちゃんは昔からほんとに変わんないよなぁ、髪型いっつもおんなじで』って。ばかにしただろ、あれ。人のコンプレックス刺激しやがって、むかついた」
「……知らない、覚えがない」
「覚えてろ、ばか。言われた方は根が深いんだからな」
「……ごめん。でもそれ本当に言ったとしても、絶対にばかにしたわけじゃない」
「だから本当に言ったんだよ!」
相当に怒っている。酒の席なら、何を言ったか覚えがないのは仕方がない。特にあっちゃんと飲むのは楽しいから、心から安らいで深酒することが多い。ああでも言ったかもしれない。安心する、という肝心の言葉だけ言っていないか、聞こえていない。
「……でもそしたらあっちゃん、恋人が出来たわけじゃないよな?」
「しつこいな。おまえの言葉が癪に障ってやっただけだよ」
「おじさん、なんにも言わなかった? おばさんは普通だったけど」
「別に……『なんで染めた』って言われて、『ちょっと反抗してみたかった』って言ったら、ふうん、って、黙った」
「……あ、そう」
昔からいい子で真面目だから、こういうことにも黙ってるのか、と察しがついた。でも辺りで噂にはなっていそうだ。なんて言っても、ここは商店街だ。おばちゃんたちはなんでも話題にしたい。憶測から来る噂話はメールの一斉送信よりも早く駆け巡る。
金髪の理由もすべて判明して、怒らせたことにがっかりしつつもほっとする。あっちゃんは「お前はどうなんだよ」と言った。何が? 金髪? 俺はちょっと明るくしちゃいるけど、そこまではしない。会社員なので。
「えっ、髪?」
「ちげえ! 恋人だ。いい人、いんのか」
「……、や、なんで?」
「大学卒業したらこっち戻ってくるって言って、戻ってこねえ。そのうち戻るって言って、まだ戻らねえ。今年もだろ」
「あ、それは……」
「それってやっぱ、あっちにそういうやついるからだろ。……あのな澄人、俺は跡継ぎだから、嫁さんもらわなきゃなんない。そろそろ見合いや婚活を考えろって、せっつかれた」
どくっと心臓が冷え込んだ。いままさに考えていたことだ。あっちゃんは今年で28歳、そういうことになっていたか! と、「しだ屋」の内部情報を探り切れなかったことを後悔する。
「変わんないのは無理だ」と言われた。
「嫌だ。あっちゃんはだめだ。だめ」
「おまえ昔っからそうだろ。俺の情報は収集して、逐一『だめだ』とか『嫌だ』とか干渉してくるくせに、てめえは自由なんだ。出て行ったっきり帰ってこねえし、自分のことは喋らないし、……恋人とかそういうの、自分のことは棚に上げて、俺には『作るな』とか、言うし」
「違う、あっちゃん」
「違わねえだろ! どーすんだよ、……おまえはどうせとっくに童貞とか卒業してんだろ。俺なんかいまだに誰も知らなくて、……おまえが酔っぱらった時にする変なキスとか、あれだけで、……女だめなまんま、一生独身で童貞だったらどーすんだよ」
あっちゃんの声が萎む。ちょっと湿っぽい。鼻にかかった喋り方と告白に、急に喉が干上がる。
確かに遊んだ奴はいる。自分のことは棚に上げて、あっちゃんに恋人が出来ないようにけん制したりもした。俺はあっちゃんが大好きで、本気で好きで、だから長期の作戦を練りこんでいた。ゆくゆくは戻って来るつもりで、こっちに本社のある会社を選んだ。ちゃんと稼ぎ、どう言ってあっちゃんのおじさんおばさんを説得し、あっちゃんを口説くか。真面目なあっちゃんの人生丸ごとそっくり欲しい。だから慎重に確実に。これが俺の計画だ。
嫁さんなんか絶対にだめだ。誰かのものになんかなっちゃだめだ。
「――俺、4月からこっち戻るんだよ」
肝心の台詞を俺は口にする。今日はこれを報告するために帰って来たのだ。そっぽを向いていたあっちゃんは、一瞬止まって、ぱっと顔をあげた。
←前編
→後編
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Re:如月久美子さま
こんにちは。ご無沙汰してしまってすみません。ようこそいらっしゃいましたw
> バレンタインだから、もしかしたらお話更新されてるかな、て思ってきてみたら、やっぱり更新されてた!! 嬉しいです~。
> かわいらしい2人だなぁ(*^_^*)
バレンタインとかまるっと忘れていて、全くやる気なかったんですけども(笑
チョコレート特集より和菓子の気分でいたら、こんな渋いBLになりました。か、かわいらしく出来ていますか?(ドキドキ
14日でぴったり終わらせられなくて、本日まで更新します。遊びに来てやってください!
コメント嬉しいです。ありがとうございました~
栗子
> バレンタインだから、もしかしたらお話更新されてるかな、て思ってきてみたら、やっぱり更新されてた!! 嬉しいです~。
> かわいらしい2人だなぁ(*^_^*)
バレンタインとかまるっと忘れていて、全くやる気なかったんですけども(笑
チョコレート特集より和菓子の気分でいたら、こんな渋いBLになりました。か、かわいらしく出来ていますか?(ドキドキ
14日でぴったり終わらせられなくて、本日まで更新します。遊びに来てやってください!
コメント嬉しいです。ありがとうございました~
栗子
プロフィール
HN:
粟津原栗子
性別:
非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。
****
2022*08*11-21
暑いですね。番外編短編、ちょこっと更新しています。
2021*12*04-2022*03*17
お久しぶりです。短編長編更新。
短編「さきごろのはる」
短編「月の椅子」
短編「みんな嬉しいお菓子の日」
長編「ファンタスティック・ブロウ」
短編「冬の日、林檎真っ赤に熟れて」
2021*08*16-08*19
甘いお菓子のある短編「最善最愛チョコレート」更新。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。
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2022*08*11-21
暑いですね。番外編短編、ちょこっと更新しています。
2021*12*04-2022*03*17
お久しぶりです。短編長編更新。
短編「さきごろのはる」
短編「月の椅子」
短編「みんな嬉しいお菓子の日」
長編「ファンタスティック・ブロウ」
短編「冬の日、林檎真っ赤に熟れて」
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甘いお菓子のある短編「最善最愛チョコレート」更新。
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