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成人女性を対象とした自作小説を置いています。
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 変化って嫌いだ。中学を卒業したらいきなり髪を染めた友達とか、空き地だった場所に建ったパチンコ屋、大学進学で遠くへ行ってしまった先輩、就職と同時に結婚した従弟とか。馴染んでいたものにいきなり裏切られる感覚。強く淋しいと思う。勝手なことに怒りも沸く。だから嫌だ。
 この時期は自然と憂鬱になる。どこかしらで絶対にそういう話を聞くから、心が落ち着かない。
 その点、俺にとってあっちゃんは絶対に変わらないものだった。安心するもの。あっちゃんの環境は、どう考えたってあっちゃんを変えようがない。地元の商店街にある和菓子屋「しだ屋」の一人息子で跡継ぎ。当たり前のように地元の学校に通い、高校を卒業したら親父さんの元で修業を始めた。途中よその和菓子屋に出向いた期間もあったが、後を継ぐためにちゃんと戻ってきた。派手に身なりを変えることもない。遊ぶこともしない。就職先は家で、きっと一生ここにいる。
 あっちゃんは3つ上だ。母方の遠縁に当たり、小さい頃から行き来があった。勉強のコツを教えてくれた。あっちゃんが入っているからという理由で地元の野球チームにも入った。実の兄貴よりあっちゃんから教わることの方が多かった。
子どもの頃のまま、あっちゃんは本当に変わらずいてくれた。高校に入って多少は色気づいたようだったが、おばさんが買ってくる柄パンをボクサーブリーフに変えたとか、その辺はまあ許容範囲。相変わらずの坊主頭で、成績は中の中、手先が器用で歳時記にやたらと詳しい。そういう商店街の菓子屋の息子があっちゃんだ。
 あっちゃんが地元にいるから、俺は安心して出歩いた。大学進学で家を出て、そのまま大学近くの企業で働いている。疲れても実家に帰れば相も変わらぬあっちゃんが待っている。あっちゃんが変わらないことの安心感で、なんでも出来た。
 だからこれは不意打ちだ。
 週末、帰省して「しだ屋」へ顔を出した。なんでだ。なんでここに、こんなきらびやかなチョコレートが売ってるんだろう。
 和菓子屋だろ。人気商品は茶饅頭と大福だろ。後は月替わりの上生菓子に日持ちのする飴類。なのに今は売り場の半分をチョコレート菓子が占領している。違うだろ。ガナッシュとか生チョコとかそういうのはもっと都会の洋菓子屋の仕事で、あっちゃんが作るのはじじくさく和三盆使った菓子でいいはずだ。
 店に入って面食らっている俺に、店番をしているおばさんが「あらスミちゃん」と声をかけた。
「お正月も帰って来たのに、また来たのねぇ。おかあさん喜ぶでしょう。今日はなににする? いちご大福出たわよー」
「いや、……あの、あっちゃんは?」
「敦樹ならいまおつかいに出てるわ。すぐ戻るから、上がる?」
 店奥に構えた住居を指しておばさんが言うが、俺は首を横に振った。なんで、チョコレート。来客用にしつらえてある竹製のベンチにふらりと腰かけると、おばさんは「お茶入れるわね」といそいそと茶碗を取り出した。
「しだ屋」は店内でちょっとした飲食もできるようになっている。買った菓子をその場で食えるのだ。そういう客には茶を無料でサービスしてくれる。だから用意がいい。出されたのは梅こぶ茶で、こういうところ一向に変わんねぇ、と俺は一息つく。
 しょっぱい茶を出されると、甘いものが欲しくなる。まめ大福といちご大福をひとつずつ頼んだ。まめ大福から取り掛かり、いよいよいちご、というところであっちゃんが帰ってきた。あっちゃんはおつかいに古い原付を使う。ヘルメットのまま店に入って来て、俺に気付いて「あ」と言った。なんだ「あ」って。
 厚手のダウンの下は、調理用の白衣に白い前掛け。清潔で正しい和菓子職人だ。が、ヘルメットを目の前で脱がれて俺は絶句した。さっぱりと刈り込んだ短い髪は見事な金髪になっている。
 チョコレートと金髪。なんだこれ。これは一体なんのサインだ。
 接客をあっちゃんに任せ、おばさんは家事のために引っ込む。ヘルメットを白い和帽子に変えて、あっちゃんがショーケース裏のカウンターに収まった。ああもうあっちゃん、それすっげえ白衣に似合わねえ。
 じっと見つめると、目が合った。あっちゃんはやっぱり不機嫌なまま唇の端を示し、「粉ついてっぞ」と言った。
「なんで怒ってんの?」
 指の腹で大福の粉を拭いながら声をかける。「俺の方が苛々してんのに」
「はあ? 意味が分かんねえよ。なんでおまえが怒るんだ」
「当たり前だろ、あっちゃんのせいに決まってんじゃん。なんだよそれ、金髪とか、チョコとか、」
「チョコ?」
 地味で渋いはずの売り場を賑やかにしている一角を指し示す。あっちゃんはそちらを向いて、「バレンタイン、来週」と答えた。


中編






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無題
今晩は、お久しぶりです~。
「和三盆」で既にハマっている私ww和菓子好きです。
粟津原さんとは好みの方向性が似ているのでしょうか・・・。

それに、この次期落ち着かないのは、自分がスミちゃんと同じで、変化を嫌うタイプだからなんだと思い至りました。腑に落ちるってこういうことですね。

あっちゃんの変化の謎、お話の続きを楽しみにしています。


あや 2013/02/13(Wed)19:24:06 編集
Re:あやさま
こんばんは。お久しぶりです。ようこそいらっしゃいました!

>「和三盆」で既にハマっている私ww和菓子好きです。
>粟津原さんとは好みの方向性が似ているのでしょうか・・・。

和菓子屋さんも和菓子も大好きです。好みが分かってくださると嬉しいですw
和菓子食べたいわーと思って書き始めましたが、書き上げて予想外の渋さに笑ってしまいました。「恋の和三盆」とか最初にふざけてはだめですね(笑

>それに、この次期落ち着かないのは、自分がスミちゃんと同じで、変化を嫌うタイプだからなんだと思い至りました。腑に落ちるってこういうことですね。
>あっちゃんの変化の謎、お話の続きを楽しみにしています。

私も本当に変化が苦手です。春は大好きですが、落ち着きません。このお話の初めのテーマはそこからだったんですが、和三盆がメインになってしまいました。スミちゃんあれこれ言いすぎです(笑
あっちゃんの金髪とチョコレートの謎は、明日解けます。お話は明後日までです。3日間、どうぞよろしくお願いしますねw

コメントありがとうございました!

栗子
【2013/02/13 20:33】
プロフィール
HN:
粟津原栗子
性別:
非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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