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二.
『あれ? 出身がSってことはさ。セノくんも地元に帰ればあんな口調で喋るの?』
正月特番も通常に差し掛かった頃、南波家でついていたテレビを観ながら四季に訊ねられた。テレビの中では四十七都道府県をあちこちめぐる旅番組が流れており、ちょうど私の地元S県の観光地に芸人が訪れていた。
『んー、あんまりならないかな。親はもともと東京の人間だしね』
『そうなんだ』
すると黙ってみかんを剥いていた八束がこちらを見た。初詣の日以降、八束は私への視線をあまり隠さなくなった。まっすぐに抜かれて私は背筋を伸ばす。
『大学進学で東京に来たんだっけ』と彼は訊いた。
『いや、院試の時だよ。大学はFだった』
『あれ? Fってフツーの国立大だよね? てっきりセノくんは美大かなんかの出身なんだと思ってたのにな?』と四季が頭を傾げる。
『Fで先生になる勉強してた。美大に進学したのは院の時だよ。教員免許持ってるから、四季ちゃんの学校でも教えられるよ、おれ』
『えー、うっそぉ』
『めちゃくちゃ頑張ったから、美術と理科を教えられる。高校美術と工芸と書道も』
『うそでしょぉー』
『ホント。前は高校で非常勤やってたこともあるし』
『出身Sで、大学がFで、大学院が東京で、いまはこの町で』
八束は臆さない目を向けた。これが彼の素の瞳なのだろう。
なんて潔い、と私は見入る。
『結婚生活は、どちらで?』
『結婚は……』
パァン、と汽笛が響いて我にかえった。目の前を特急列車が通過していく。やかましかった遮断機の警報が止まり、バーが上がる。私は慎重に安全確認をしてアクセルを踏む。
結婚生活はこの町ではなかった。あの頃の私は高校の非常勤をして生活の糧を得ていたが、妻の仕事先の都合で非常にアーバンな場所で生活をしていた。
妻とは大学院で知りあった。彼女は学部生だったが、歳は私よりふたつ上だった。デザイン科にいた彼女は卒業と同時に建築会社のインテリア部門に就職した。会話に長けた人でセンスは常に最先端を掴み、会社ではばりばり出世して、私よりもずっと自立していた。
私が進んだ大学院は、国内で唯一の国立の芸術大学だった。非常に倍率が高く、浪人生がほとんどを占める。美術教育の専攻だったとはいえ美大ではない大学からの大学院進学はちょっと異例で、しかもストレートでの進学もまた異例だった。大学院では私が最年少だった。
大学院――居心地は悪かったが、しがみついた。私の作品は「精神性が安易だ」と教授陣には酷評されたのだ。だったら院試で落とせばよかったのになんで入れたんだよ、と思いながら、とにかく集中した。すればするほど教授たちには認められなかったが、作品の人気は出た。院生でありながら多くのファンがつき、彼らのほとんどは若い世代だった。
このままのスピードを落とさぬまま制作を続けられれば、私は彫刻家としてやってゆけるかもしれない。ひと握りの人間になりたくて、なんとしてでも掴み取ろうと必死だった。いまは非常勤でやっている仕事もやめて、ゆくゆくは作品一本で、コンスタントに発表して評価を得られれば。
それが崩れたのは、妻と結婚してからだった。
妻はよき理解者というわけではなかったが、お互いの利害関係は一致していたと言える。子どもは出来ればひとりかふたりぐらい、でもいまは仕事に集中したいの。家事は分担でね。お互いの活動に夢中で、無関心だった。少なくとも結婚当初は。だから結婚したのだ。
お互いにお互いのことに熱心だったから、気づいたら家はとてつもなく荒んでいた。
車を駅のコインパーキングに入れた。特急の止まるターミナルまで来たのは久しぶりだった。そもそも普段は電車を使わず、車移動が主だ。八束と飲みに行く際には車を置くが、近場で済ますので電車では出かけない。だから交通系のICカードも持っていない。
ターミナルとはいえ、さびれた駅だ。車を降りて待合室への階段を上がる。喫茶店でもあればよいが、それすらもない駅だった。それでもターミナルという性質上か、様々な身なりの人間とすれ違う。
待合室のだるまストーブの傍の座席で、夏衣(かい)はスマートフォンをいじっていた。驚くべきことに毛皮のコートを着ていた。どこそこブランドの最新だ、とでも言うだろうか。それとも蚤の市で見つけたヴィンテージのお直しだ、とでも言うだろうか。
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粟津原栗子
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暑いですね。番外編短編、ちょこっと更新しています。
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短編「みんな嬉しいお菓子の日」
長編「ファンタスティック・ブロウ」
短編「冬の日、林檎真っ赤に熟れて」
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甘いお菓子のある短編「最善最愛チョコレート」更新。
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