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成人女性を対象とした自作小説を置いています。
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 静穏のズボンを脱がせながら、カバンの中身を思い出した。
「あのさ、」
 どうしたの、と静穏は八束をまさぐる手を止める。
「こういう想定をしていたわけじゃないけど、期待はあったから、その、……ローションが、カバンに」
「ああ」
 静穏は伸び上がり、ベッド下の引き出しからボトルを取り出した。
「おれもこの通り」
「……」恥ずかしい。
「こないだして、やっぱりいるよなと思ったから買ったんだけど、……おれはこういうの使ってあんまりしたことないから、八束に好みがあればそっち使うよ」
「……」
「これはヒアルロン酸配合、アロエ、ていう……黙るなよ、恥ずかしいんだって」
「いや、なんかもう、僕も恥ずかしくて、」
「中学生みたいな進行で?」
「はじめてなわけでもないのにな」
「やる気あった方がいいんじゃないの、こういうのって。変に冷めてるよりさ」
 その通りだと思ったから、静穏の下着を改めて足から抜いて、「それ使おうよ」と言った。
「僕のはそれが終わったら使おう」
「ふ」
「なに?」
「いや、使い切るまでおれとセックスしてくれるんだと思ったから。さっき八束が思ったみたいなこと」
「……そういうこと言うから、」
「八束、上になって腰向けろ」
 中学生みたいな進行でも、体位はとんでもなかった。静穏の頭に跨り、静穏の性器に唇を寄せる。静穏は八束の性器を撫でくるみつつ、ローションで潤して奥へと指を進めた。指を入れられて、腰が勝手に揺れる。八束は必死で静穏の逞しい性器を愛撫するのだけど、静穏の指がするりと三本まとめて抜き差しされる頃にはもう、体勢を保っていられなかった。
 口元にある静穏の性器も、限界を訴えて硬くそり返っている。入れていい? と背後から声がして、うなずく間もなく仰向けに転がされた。
 足をしっかりと掴んで、静穏の性器が入り口にぴたりと当てられる。求めてひくひくと収縮するのは分かっている。先端の出っ張りを飲み込んで、ぐうっと静穏が腰を進めてくる。狭さと、気持ちよさ、つながる歓喜で、目がチカチカする。もったいない、どんな顔でセックスするのかを八束は見たい。
 首の後ろに手を引っ掛けて顔を近づける。体勢としては苦しいけれど、快楽の方が勝る。
「あー、……気持ちいい」
 しみじみと静穏は言った。間近で「八束は?」と訊ね返され、返事の代わりに唇を奪う。
 静穏の腰に足をしっかりと絡みつかせ、もう上も下も、離れられないように。粘ついた水音は上下どちらからもした。
「八束、ここだろ」いきなり腰を使っていい場所をいいように擦られた。
「あっ、んぅ」
「ここ押すと八束の中がうねる。熱くなる」
「ああっ、やっ」
 ずる、と静穏のものが引き抜かれ、去りゆく質量を惜しんで締め付ける。性器は入り口付近でぬくりととどまり、引っ掛けたまま小刻みに揺さぶられた。
「あっ、やっだっ、それっ」
「それで、こうする」
「ああああっ――……!」
 閉じかかっていた内部を、一気に貫かれた。経験したことのない質量とスピードが、経験したことのない奥まで。一瞬の明滅と恍惚を味わい、気づいたら静穏の腹はにちゃにちゃと白く濡れていた。
「八束のいいところ、もう覚えた」
「う……」
 達して中を締め付けて、静穏はそれを噛み殺して堪えたらしい。ちょっと苦しそうに息を荒くして笑っていたのが、とてもせつなかった。
 静穏の逞しい二の腕にしがみつき、息を吐いた。「よかった」
「え、なにが?」
「セノさんが健康でよかった。この歳でまともなセックスが出来る」
 もう過呼吸は起こさない、という保証もない。けれど健全な肉体があるということは、ある程度健全な精神も備わっているのだろう。だからよかった。
「……八束もね。細いけど不健康なわけじゃない」
「検診はとりあえず問題ないよ」
「八束は違ったんだろうけど、八束とこうなるまでのおれはなんつーか、枯れるってこういうことなんだなって思ってたぐらいでさ」
「そうなのか?」
「もったいないからもうちょっと長くやりたいんだけど、いい?」
「え、僕はもたなっあっ」
 ゆるゆると腰を揺すられて参った。いった直後でまだ全身がびりびりと通電しているのに、また針をちくちくと仕込まれる。
「セノさっ」抗議は、胸の先を強めに噛まれて言えなくされた。ぴんぴんに腫れて尖ったそこを舌と歯を使ってなぶられる。そのくせつながったままの半身はゆるゆると突かれ、たまにごりっと八束の過敏な部分を抉ってくる。たまったもんじゃなく、性器が透明な体液をたらたらと垂らしてまた力を戻す。
 静穏は丁寧に八束の身体をすすった。味わう、舐め尽くす、反芻する。どの表現もしっくり来ない熱心さで。
 煮え切らない、振り抜けない快楽の淵に立たされて、あとは落ちるだけなのに、落としてもらえない。
「やだ、セノさっんっ……あっ、いっ、きたっいっ……!」
「ごめんあとちょっと」
「無理……!」
「なら、惜しいけど本気出す」
 次あるしな、と呟いて、静穏は八束の性器にじかに触れた。合図みたいにごつごつと最奥を容赦なく突かれる」
「あっ、やっ、やだっ……ああっ!」
「――っ、はっ、八束、」
「あっ、あっ、あっ……――また、もうっ……!」
「ごめんこのまま出すよ」
「んんっ!」
 大きく引いて、大きく穿つ。前も刺激され、がくがくと身体が痙攣する。静穏にべったりと絡み付いているただの肉の塊だと思った瞬間、とんでもない愉悦と歓喜で背中がしなり、ベッドから浮いた。
 静穏の性器の先がしぶいて、体内に盛大に快楽を注ぎ込まれる。たっぷりと濡らされて身体が快哉を叫ぶ。かろうじて覚えているのはそこまで。



 いつの間にか眠っていた。サリサリと懐かしい音が遠くで聞こえる。予備校に通っていたころ、あるいは大学のころ。こういう音が静かな空間に満ちていた。鉛筆を走らせてノートに記載する音だ。
 よく聞けばそれとは微妙に異なるようだった。八束が聞き覚える音よりもストロークが長い。次第に意識が浮上してきて、気がつけば八束はベッドに横たわっていた。八束だけだ。静穏は椅子を引っ張り出してきて、八束と適度な距離感に座り、スケッチブックに鉛筆を走らせていた。
 その眼は、観察を積み重ねて現実を紙に描きつける芸術家そのものの鋭さだった。八束は声をかけられない。おそらく自分が描かれていると分かって、ますますみじろぎひとつ出来なくなった。
 だが静穏は目を開けた八束に気づき、スケッチブックを置いて八束に微笑んだ。「起きた?」
「……僕を描いてたのか、」
「ちょっとスケッチさせてもらってた」
「僕、動かない方がいい?」
「いや、いいよ。さっきぬるま湯で身体は拭いたけど、八束は銭湯でも行くか?」
 そういえば事後なのに身体はさっぱりと乾いていた。そこまでして、どうしてこの人は自分を大切にしてくれるのか。いままで大切に扱われたことがなかったから、わからなくなる。
 身体を動かそうとして、あ、と気づく。
「ごめん、ちょっとトイレ貸りる」
「無理させた? 腹痛い?」
「いや、……中のもの、掻き出さないと」
「――あ、なるほど……」
 静穏はさっとその場を離れ、すぐさま洗面器にぬるま湯と浸したタオルを持って現れた。八束に膝立ちになるよう指示し、上半身を自身に縋らせる。
「なに、」
 背後に濡れタオルが当てられる。「ここで出しちゃっていいよ」と言われ、羞恥で顔が熱くなった。
 静穏の指が、つ、と潜り込んでくる。八束はかろうじてこらえ、静穏の指に任せる。中に吐き出された白濁を上手にタオルの上に掻き出すと、タオルを絞って性器やその周辺を拭われた。あたかも排泄を促され、それを見られているかのような行為に、身体が震えて仕方がない。
「これで全部かな? 大丈夫? まだ少し寝る?」
 平然と言ってのける男が、憎い気もしてくる。恨みがましいような気持ちになったけれど、静穏は労わる瞳でしかこちらを見ていなかったから、首をそっと振った。
「……きみはなにしてるの、」
「八束を見てる」
「……」
「全部、見たい。だから隈なく見てる」
 皮膚や表情、髪、そういう表面のものだけでなく、静穏が八束の中まで見ようとしているのが分かった。内臓、骨格、筋肉、血管、そういうものまで全て。
 これだから芸術家というやつは、と思った。
 まったく、難儀な人間に惚れてしまった。いや、人間じゃないのかもしれない。神様や宇宙が姿を人間の形にして、目の前に置いている。
「僕はもう少し寝るよ」
「そうか」
「寝て起きたら銭湯行って、腹ごしらえしよう。実家行こうよ。四季もそろそろ寮に戻るし、その前に四季の飯食いたいだろ?」
「食べたいね。いいプランだ」
「じゃあ四季に連絡しとく」
 スマートフォンでアプリを開くと、静穏が「四季ちゃんスマホ持ったの?」と訊いた。
「高校入学の時に、連絡用に。きみもアドレス交換するといいよ」
「ああ、いいね」
 静穏は窓の外を見た。ブラインドが降りているが、外は明るい。
「とてもいい」
 そう言って八束の髪に触れ、目蓋に触れ、「おやすみ」と言った。八束は目を閉じる。まだ外からは夏を最後まで満喫したいと叫ぶやかましい音が鳴り響いている。


end.


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粟津原栗子
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自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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