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成人女性を対象とした自作小説を置いています。
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「……外そうか」
 これを外したところでなんの意味もないことを承知で訊ねる。
「いえ、そのままでいいです。……僕が好きになった人は好きになっちゃいけない人なんだって、……自惚れずに済む」
「もう戻らないよ」
 具体的になにを考えているだなんてものはなかったけれど、暖ははっきりとそう告げた。
「戻れない。なかったことには、ならない」
「……」
「いま鴇田さんに触って欲しいと思う」
 ぐ、と喉が鳴ったが、それが暖か鴇田かは分からなかった。分からないほど距離が近い。
「……ですが、」
「きっとあとでおれもあなたも嫌な思いをする。たくさんする羽目になる。それでもいま触れない方を、おれは後悔する」
「……僕もすると思います」
「じゃあ触れたい」
「……分からないんです。どうやっていいのか。三倉さんが教えてくれなきゃ」
「……そうだな、」
 身体を動かし、身体の接触を確かめる。そっと鴇田の股間に足を擦り付けた。
「……ここを自分で触ったりもしない?」
「……そんなわけない」
「うん。いいよ、正しい」
「なんかすごく、……落ち着かない感じの汗が出て来て恥ずかしいと言うか、心許ないです」
「それも正しい。……してやるよ」
「え?」
「おれこないだ蒼生子さん相手に勃たなかったから、自分の性欲には自信がない。おれのすること覚えておいて……男相手ははじめてだからまあ、おれもよく分かんないけど。多分そんなにわるくはないよ」
「三倉さん、」
「触れられて嫌だったり気持ちが悪くなったら、『やめろ』と言ってください。でも大丈夫そうなら言わない。約束してください」
「……わかりました」
 布団の上掛けを剥いで、鴇田の上になる。直接的に触れると鴇田はびくりと身体を攣らす。暖にあるのは、単純な興味だった。自分の手や口でこの男がどうなるのか、ならないのか、知りたい。
 スウェットの上から揉むと、正常作動で硬くなった。触れる抵抗さえ除けば鴇田は健康な肉体を備えているということだ。硬くなったものを露出させた。鴇田の体躯にふさわしい、すらりと長い性器だった。それを目の当たりにして、暖は尾てい骨のあたりが心許なくなった。久々に興奮している。男相手だったら勃たなくてもおかしなことじゃないと余計なプレッシャーがない分、かえって性に対する気持ちが若い。
 ふ、と息を吹きかけてみる。鴇田が息を飲んだのが分かった。顔を手で覆って、彼は羞恥と性感に耐えているようだった。幹に触れ、先端のまるみに唇を押し当て、舐めて、咥える。
「……う……」
 鴇田の呻き声に、やっぱり興奮した。男のものを咥えた経験などないが、やり方を身体は知っているような気がした。ここを刺激すればきっと気持ちがいい、と分かる。同じ性を持つからか、容易いことだった。
 鴇田の腿に胸を預けて、性器を一心に刺激する。鴇田のものはどんどん量を増していく。それがなんだか気持ちがいいと思った。相手が満足していることが伝わることを、喜びとして感じている。
 鴇田の手が確かな意志を持って暖の腿に触れたとき、だから、びっくりした。
「気持ち悪い? やめる?」
「いえ、……――僕も触ります。三倉さんに触りたいです」
「……気持ち悪くない?」
「思わないです」
「あー……だけど、さっきも言ったように興奮するのか自信がなくて、」
「勃たなくても僕はがっかりしないです。というか、それが普通だと思う。ただあんたにされて気持ちがいいから、僕も触ってみたい」
 その気持ちはよく分かると思った。「分かった」と頷き、暖は自分からスウェットを脱いだ。
 互いに横向きになり、相手の性器を手で包む。鴇田に触れられて冗談でなく体表に汗が滲んだ。触れ方がたどたどしいからかもしれない。それでも熱い口腔に含まれれば、純粋な性感でいっぱいになった。二酸化炭素の溶けた水みたいに、体内が発泡しているような気がした。
 暖が鴇田の性器を舐める。鴇田も暖の性器に舌を這わす。口の中に含んで吸う。暖のそこもそうされる。
 暖がすることをそっくり手本に取って、鴇田は熱心に暖の性器を愛撫した。そのうち暖は分からなくなる。鴇田を気持ちよくしたいからしているはずのことなのに、自分を気持ちよくしてほしくてしていることみたいだ。
 互いの身体が汗ばみ、手が滑る。先に呻いたのは鴇田だった。太腿に力が入っているのが分かったからそろそろだと思って追い立てて、鴇田は暖の口内で弾けた。受け止めきれなかった苦味が顔中に散ったが、自分でもいかれていると思うぐらい、嫌なことではなかった。
 残滓を余さず吸い取る。鴇田は身体を硬くし、ちいさな声で「すみません」と謝った。
「――気持ちよかったでしょう」
 顔に散った鴇田の精液を指で掬って舐める。そうしていると鴇田が身体を起こし、暖の顔の方へ自身の顔を寄せて来た。「すみません」と再度謝り、暖の顔を指で拭った、
「――僕は案の定というか、やっぱり下手ですね。三倉さん、全然反応しない……」
「いや、わりと結構、結構だよ。充分興奮してる。ここ最近のおれからすれば、すごく」
「そうなんですか?」
「鴇田さんが気持ちいいのが、気持ちいいよ」
 そう言うと、鴇田の方からキスをされた。暖はうっとりと目を閉じる。先ほど暖が教えたことだと思ったら、やっぱり身体は発泡しているようにピリピリした。鴇田の手は懲りず暖を気持ちよくさせようと中途半端な性器に伸びたが、暖はその手を取ってもっと奥へと触らせた。
 鴇田の指が、戸惑うそぶりで震える。
「男同士って、ここなんだっけ」
「……」
「そういえば確認しなかったな。あなたはどっち?」
「どっち?」
「おれに挿れたいと思う? 挿れられたいと思う?」
 訊ねると、鴇田は照れを誤魔化すように暖の肩先に頭を乗せた。けれど頬の発熱が伝わる。
「挿れられたいと思うって方だと、おれはちょっと自信がないから」
「考えたことすらなかったです。こうなることは僕にはないと思っていたから」
「じゃあ今日はここ使えばいい」
「……使う、て表現が嫌です」
「それは悪かった。ええと、そうだな。……挿れる方は絶対気持ちいいってことをおれは知ってる。だったら今日は鴇田さんがそっちになればいい」
「……自分は気持ちよくなくても、いい?」
「言ってるでしょ、おれはもう充分気持ちがいいんだって」
 鴇田の手を取りながら、後ろに倒れた。足を広げるのは抵抗があったが、それでもひらいた。鴇田はこわごわ奥に触れて、指の腹で押した。
「あー、えーと、……慣らした方がいいんだよな、きっと。なんかジェルとか、……ないか」
「……僕は、」
「ん?」
「セックスを知らないので訊くんですけど、……セックスって、挿れて出すだけ、ですか?」
 鴇田の台詞にドキリとした。挿れて出すだけ。蒼生子と試みていたのは、そういうことだった。
「いや、……もっと色々あるし、するよ。相手と一緒に気持ちよくなりたいからさ」
「じゃあ挿れないでいいです。それより触りたい」
「……」
「あんたにも気持ちよくなってほしい……」
 あんまりにも切実にそう言われ、暖は参ってしまった。腕を伸ばし、「おいで」と鴇田を引き寄せる。暖の上に重なった鴇田の髪をまさぐり、存分にかきまわし、撫でた。
 胸に耳や頬をぴったりとつける。鴇田がまばたきする、その睫毛の僅かな上下が肌に触れる。鴇田の呼吸も肌に落ちる。しばらくそのまま、鴇田が身じろいだ。暖以外のなにも写さないとでも覚悟の決めたようなまっすぐで黒い瞳が暖を捉え、そうされると思ったから、目を閉じた。唇に唇が触れるのを待ったが、鴇田の顔は暖の顎から首筋へ落ち、そこに鼻を押し付けてにおいを嗅ぎ、舐められてびっくりした。
「――っ、鴇田さ」
「すいません、やめます」
 そう言って鴇田は瞬時に身体を離したが、残るのはうっすらとした寒さで、耐えきれずまた暖の胸に頭を乗っけて来た。
 片手を絡ませる。鴇田の右手は、暖の左手薬指を気にした。迷っているそぶりが伝わる。だが男は空いている片方の手で、暖の腹をたわむれに何度か叩いた。



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プロフィール
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粟津原栗子
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自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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