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成人女性を対象とした自作小説を置いています。
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五.冬の華



 三日連休だったのでどこかへ出かけるのもいいと思っていた。そのどこかへは暁登を伴えばもっといい、とも考えていて、現実問題、暁登は新聞配達のアルバイトがあり、そんなには休めないし金もない、と言った。金ぐらいは別に構うことはなかったが、バイトを一日ないしは二日休んで収入が減る、と浮かない顔をする暁登の顔を見るのは、それはそれで嫌だな、と思った。だから三日あった連休は、どこへも出かけなかった。三日間きっちり家から出ず、そのうちの二日間ぐらいは自室で過ごし、自室で過ごしたうちのほぼ百パーセントをベッドの中で過ごした。ベッドの中には暁登も巻き込んだ。彼がアルバイト以外で出かけることを許さず、電話もメールもSNSの利用もする隙を与えず、眠るかセックスに耽るか。腹が減って起きて適当に食事をして、衣類はろくに身に着けず、風呂を沸かせば風呂場でセックスをしたし、台所で湯を沸かす暁登におおいかぶさって、そこでもした。驚異的に漲る性欲というよりは、全身で暁登を欲していたと言える。
 ただただ淋しかった。
 恋人の淋しさに付き合わされていた暁登にとっては、相当ハードな三日間であっただろう。朝数時間のアルバイトにのみ出かけるだけで、軟禁状態もいいところだった。はじめは素直に快感に顔を歪ませては啼いていたが、次第に声は掠れ体は疲労を滲ませた。腰がだるい、と訴えられたが、だからと言って容赦せず、やめなかった。
 連休最終日の夕方、ようやく暁登の軟禁を解く。ベッドの上でぐったりと放心している暁登から自身の雄を引き抜くと、入れっぱなしだったせいであいた穴から樹生の体液がどろりと、呆れるぐらいに垂れたが、それを見てもさすがにもう、したいとは思わなかった。思ったとして言えない。健気に樹生を受け入れ続けた体が可哀想になり、穴に指を入れ、中身を掻き出す。暁登は鼻から息を漏らし、だるそうに体を丸めた。
「……まだすんの」
「しない、もうさすがに。わるかった。痛い?」と尋ねる。擦れて縁が赤く腫れていた。
「痺れて感覚ない。閉じてんのか開いてんのか分かんねえ」
 暁登は自身の背後に手を伸ばす。樹生はその手を取って確かめさせた。腫れた局部に触れて、そこがどうなっているのか想像したくもないのだろう、暁登は「うわ」と手を引っ込めた。
「信じらんない」
「わるかった」
「明日の朝のバイト行けんのか? おれ」
「立てる?」
「いまはなんかもう、立つ気が起きない」
「……ごめん」
 ベッドに沈む暁登を背に、樹生は部屋から出る。暖房の入らない居間は寒々しく、裸体にはきつい。コップに水を汲んで、早々に部屋へ戻った。
 暁登を抱き起こし、水を飲ませた。こくこくと上下するのどぼとけの動きをぼんやりと見つめる。お代わりを求められ、同じことをもう一度繰り返す。コップ二杯の水を飲み干して、暁登はまたベッドに横たわった。
「風呂入る?」
「だるいから後で」
「腹は?」
「すいてる。けど、これも後でな」
 樹生の質問に答えることすら煩わしいとばかりに、暁登は背を向けた。「ごめん」と言うと、しばらくの沈黙の後に暁登が「なんなんだよ」と言った。
「謝ってばっかだな、あんた。別に悪いことしてないだろ。やりまくってただけ。合意の上だ」
「……」また謝りそうになるのをこらえた。
「あんた年始からずっとそんな調子だな。疲れてるっていうか、ほけてるっていうか。なんかあった?」
「……繁忙期過ぎて、反動がガクッと来たんだよ」
「ふうん」
 それ以上暁登はなにも言わなかったが、体のだるさに負けただけで納得はしていないと分かっていた。しばらくして暁登は眠りだした。その体に毛布をかぶせ、樹生は部屋を出る。煙草が吸いたくなった。
 冬のベランダに裸で出る勇気はないので、換気扇をまわしてその下で煙草を吸った。ぼんやりと考えごとに耽る。暁登に触れてすっきりするかと思ったのに、なかなかの憂鬱で、気分が晴れない。それもこれも全てあの爺とその息子のせいだ、と心の中で樹生は毒づく。加えて茉莉。嫌になる。
 あれから早の家を出て仕事に向かっても、心の中はあまり穏やかではなかった。仕事は仕事、プライベートはプライベートとすっきり割り切れる性分の樹生には珍しいことで、正直参った。吸う煙草の本数は増えるばかりで、果ては苛々してきた。苛々すれば対人関係に摩擦は出るし、ミスも出やすくなる。同僚にも「話しかけづらい」と言われた。
 早の元は訪れていないが、電話では話した。早の話では、あの老人と中年の男は親子で、老人は早の亡くなった夫の古い馴染みだという。名を、老人の方は「夏居厳(なついいわお)」、息子の方は「夏居嘉彦(なついよしひこ)」と言うのだと教えてもらった。



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PCメンテナンス、無事に終了しました。
間にあってよかったです。

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粟津原栗子
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成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
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