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成人女性を対象とした自作小説を置いています。
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 頭の奥底が鈍く痛んだ。
 目の奥が眩く発光しているような明滅を束の間味わい、理は知らずのうちに舌打ちをしていた。毎年必ずなにかと理由をつけてやって来るもの。ここまで欠かさず丁寧に来られると、嫌味に挨拶でもしたくなる。やあやあようこそ。今年もいらっしゃいませ、相変わらずお元気で。
 同じく美術準備室内にいた中年の女性教諭に、「柾木先生?」と声をかけられた。
「水出しのコーヒーがちょうどよいようですけど、飲まれます?」
「いや、……今日はやめておきます」
「あら珍しい。ん? 前にもありましたね、こんなこと」
 んー、と彼女は考え込み、やがて「あれが来ましたか?」と訊いた。
「そうですね、あれが」
「毎年律儀ですこと。今日はもう帰られます?」
「いえ、まだ軽い頭痛と眼痛ぐらいなので、いまのうちに仕事をします」
「そうですか、無理なさらないでね。去年は結局、どのくらい寝込んだんでしたっけ」
「確か」思い出すのも面倒だが覚えていた。「寝込んだのは、三日ほど」
「去年は完治までずいぶんかかった気がしますよ」
「来客がいてうまく休めなかったんですよ。今年は大丈夫のはずです。多分」
「この学校に来てはじめのご挨拶が『夏にはご迷惑をおかけします』だったの、あれはもう四年前でしたかね。今年こそ、お大事に」
「そうですね、気をつけます」
 こうなってくるといよいよ慌ただしい。いまのうちに出来ることをして、帰れそうなら早く帰るべきだろう。今回はどうだろうな、と身体の内にこもる熱を量る。
(まあ、去年のようなことはないか)
 去年のあれはあれで、慈朗の方が堪えたらしい。あれ以降連絡を取っているのかいないのか、そこまで把握はしていないが、会うときは外で、と決めているようだった。
(いまのうちに慈朗に連絡……)
 目を閉じる。目蓋の辺りを熱く感じる。ふと、慈朗の冷たい手を目元に欲しくなって、理は苦笑した。幼いころ理の身体の心配をしたのは祖母で、夏場は決まって彼女が面倒を見てくれた。思春期のころには気付けば赤城がいた。ばっかだなあ、また身体だめんなってんの、と笑う声がよみがえる。
 ひとりの時期もあった。何年もあった。このまま一生終わると覚悟もしていた。それでいま、自分は慈朗のことを当たり前に欲しがっている。
 学習しない身体は、しかし思うほど恨めしいものでもないのかもしれない。理は相変わらず夏風邪を引いたようだった。



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粟津原栗子
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自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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