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「夜鷹、カード届いた。ありがとう」
電話口でそう告げると、夜鷹は『いつも通りだろ』と冷笑した。
「いや、海外からクリスマスカードをもらったのがはじめてだったから、なんか嬉しくて。この星の写真、本当にすごいな」
『湖のほとりから見える星で、観光名所だとよ』
「夜鷹も見た?」
『おれは氷河の方が楽しかったけどね』
「そっちは夏なんだっけ」
『そう。だからクリスマス感がない。明るくて暑くて賑やかなクリスマスだよ』
冬休みを利用して南半球に短期留学に行っている夜鷹との電話は、長く話せるものではなかったけれど、嬉しかった。
実家からかけると母親の視線が刺さるので、駅前に設置された国際通話の可能な公衆電話からかけていた。寒くて凍えるが、夜鷹の声が耳に吹き込まれてそこだけ熱い。
「でもこうやって話してると、夜鷹がどこにいても変わんない」
そう言うと、夜鷹は不機嫌そうに『あ?』と返事をした。
「東京にいても、南半球に行ってても、離れてることには変わりないから」
『じゃあ月にいても火星にいても変わんねえってことだな』
「そうかもしれない」
傍にいないから、意味がない。
「夜鷹」
淋しい、と口にしかけて、とどまる。同じ日本の中にいても感じるこの感情が、もっと離れるいまの距離を超えるわけがない。怖くて言える台詞ではなかった。
「……早く大学生になりたい」
『あと二年ちょっと頑張れ』
「ロケット乗ったら宇宙に出られるまで十分かかんないんだよ。二年あったら火星に行って帰って来られる」
『じゃあ火星まで往復して』
ププ、と雑音が入る。
『旅の終着地点で落ち会おうぜ、青』
ブーとブザーが鳴り、電話は切れた。
電話口でそう告げると、夜鷹は『いつも通りだろ』と冷笑した。
「いや、海外からクリスマスカードをもらったのがはじめてだったから、なんか嬉しくて。この星の写真、本当にすごいな」
『湖のほとりから見える星で、観光名所だとよ』
「夜鷹も見た?」
『おれは氷河の方が楽しかったけどね』
「そっちは夏なんだっけ」
『そう。だからクリスマス感がない。明るくて暑くて賑やかなクリスマスだよ』
冬休みを利用して南半球に短期留学に行っている夜鷹との電話は、長く話せるものではなかったけれど、嬉しかった。
実家からかけると母親の視線が刺さるので、駅前に設置された国際通話の可能な公衆電話からかけていた。寒くて凍えるが、夜鷹の声が耳に吹き込まれてそこだけ熱い。
「でもこうやって話してると、夜鷹がどこにいても変わんない」
そう言うと、夜鷹は不機嫌そうに『あ?』と返事をした。
「東京にいても、南半球に行ってても、離れてることには変わりないから」
『じゃあ月にいても火星にいても変わんねえってことだな』
「そうかもしれない」
傍にいないから、意味がない。
「夜鷹」
淋しい、と口にしかけて、とどまる。同じ日本の中にいても感じるこの感情が、もっと離れるいまの距離を超えるわけがない。怖くて言える台詞ではなかった。
「……早く大学生になりたい」
『あと二年ちょっと頑張れ』
「ロケット乗ったら宇宙に出られるまで十分かかんないんだよ。二年あったら火星に行って帰って来られる」
『じゃあ火星まで往復して』
ププ、と雑音が入る。
『旅の終着地点で落ち会おうぜ、青』
ブーとブザーが鳴り、電話は切れた。
朝のぼやけた光がカーテンの隙間から差し込んでいた。青の隣で眠る夜鷹の、眼鏡を外した寝顔を眺める。髪の分け目が崩れていくらか若く見えた。銃創をなぞってから肩先までしっかりと毛布をかけてやってベッドから抜け出る。冷気を感じて慌てて服を着た。暖房を入れ、朝食の支度を簡単に済ませて、日課のランニングに出る。
街は年末で、早朝でも人がせかせかと行き来をする。とはいえどこも仕事納めを迎えているようで、あからさまなスーツ姿は見かけなくなった。一定のスピードを保つことを心がけて小一時間ばかり走り、マンションに戻る。夜鷹は起きて、洗い髪のまま青がボトルに用意した紅茶を飲んでいた。
「morning」
「髪、ちゃんと乾かせ」
滴が毛先に溜まる髪をタオルで拭う。首筋に垂れた水気も拭き取る。夜鷹の着ていたのは今日青が着ようと思って出しておいたネイビーのセーターで、夜鷹にはややオーバーサイズだった。苦笑する。
青もシャワーを浴び、別の着替えを引っ張り出してダイニングに戻る。向かい合って朝食を取りながら、「今日どうする?」と夜鷹に訊ねる。
「実家帰るか? 大晦日だし」
「おまえと一緒でいいよ」
「買い出しで終わるぞ」
「買い出しが終われば?」
「掃除はあらかた済んでるから、寝正月の準備だな」
「いいプランじゃないか。さっさと買い出し済まして飲んだくれようぜ。クリスマスに飲まなかったワインが残ってる」
そう言って夜鷹は両面焼きの目玉焼きの半分を口に放り込んだ。青もスープを口にする。
夜鷹の黒い髪、黒い眼鏡、黒い目。日焼けを知っているはずなのにいつも白い肌。青が着るはずだった青いセーター。手首の骨。指先に嵌まる黒っぽいリング。昨夜、青が誤って引っ掻いた手の甲のみみず腫れ。何度も噛み付いた喉から肩。舌先で辿った身体の盛り上がり、あるいは窪み。
火星までの距離を何往復も繰り返して、ようやく夜鷹は青の傍にいる。また行ってしまう日は来るが、それでも青の元へ戻ってくる。
繰り返し夜鷹は出掛け、戻る。青のいるところへ帰る。
青はその度安堵し、やすらぎ、悲しみ、淋しがり、自棄になり、孤独を味わう。
それを何度も何度も、分かっていながら突きつけられる。夜鷹に言わせればこれは青だけの痛みであり、青だけが味わえる特権だ。
青が青として生きているからこそ感じることの出来る唯一無二の絶望には、どこか淡い光が灯っていて、青は噛み締めて縋る。
「買い出し、なに買うんだ」と夜鷹は訊いた。
「正月に困らない程度の食料と酒。あと年越し蕎麦。餅はいいんだけど、小さい松飾りは買おうと思ってる」
「うにと蟹とあわびと伊勢海老とA5ランクの和牛も買って」
「おまえも金を出せ」
「あとローション終わっただろ、昨夜」
「人の話を聞いてくれ」
「除夜の鐘聞きながらやりまくる予定だからないと困る」
「煩悩吹き消されたら夜鷹とセックスなんかできないよ」
「お、なんだやる気あんじゃん」
向かいから伸びた夜鷹の足が膝の上にためらいなく乗る。行儀の悪い爪先を手で払う。
「朝だから」とたしなめるも、向かいの男はにやにやと笑うだけだ。
「紅白の勝敗賭けて、負けた方がボトムになるってのは?」
「賭けない」
「じゃあ顔射できる」
「夜鷹、朝だから」
「アダルトグッズ買ってみるのは?」
「夜鷹」
「上品ぶったってやることやってんだからいまさらだよ、青」
返す言葉がなくて黙る。
「おまえのことだから二年参り行きます、とか言いそうだったんだがな」
「混雑が嫌で初詣はいつも三が日をずらして行くんだ」
「ああ、おまえらしい。混んでるから行かないっていう選択をしない辺りが非常に」
「おれはおれでしかいられないらしいからな。夜鷹の理論だと」
「おれの理論じゃねえ。この世の物理だ」
食後の紅茶を飲んで、夜鷹は息をついた。
「来年の願い事は?」
にやりと笑って訊かれるから、「健康」と言葉を濁した。もうだいぶ、思う通りに結構叶ったとは言わないでおく。
end.
← 中編
あと数日更新します。
街は年末で、早朝でも人がせかせかと行き来をする。とはいえどこも仕事納めを迎えているようで、あからさまなスーツ姿は見かけなくなった。一定のスピードを保つことを心がけて小一時間ばかり走り、マンションに戻る。夜鷹は起きて、洗い髪のまま青がボトルに用意した紅茶を飲んでいた。
「morning」
「髪、ちゃんと乾かせ」
滴が毛先に溜まる髪をタオルで拭う。首筋に垂れた水気も拭き取る。夜鷹の着ていたのは今日青が着ようと思って出しておいたネイビーのセーターで、夜鷹にはややオーバーサイズだった。苦笑する。
青もシャワーを浴び、別の着替えを引っ張り出してダイニングに戻る。向かい合って朝食を取りながら、「今日どうする?」と夜鷹に訊ねる。
「実家帰るか? 大晦日だし」
「おまえと一緒でいいよ」
「買い出しで終わるぞ」
「買い出しが終われば?」
「掃除はあらかた済んでるから、寝正月の準備だな」
「いいプランじゃないか。さっさと買い出し済まして飲んだくれようぜ。クリスマスに飲まなかったワインが残ってる」
そう言って夜鷹は両面焼きの目玉焼きの半分を口に放り込んだ。青もスープを口にする。
夜鷹の黒い髪、黒い眼鏡、黒い目。日焼けを知っているはずなのにいつも白い肌。青が着るはずだった青いセーター。手首の骨。指先に嵌まる黒っぽいリング。昨夜、青が誤って引っ掻いた手の甲のみみず腫れ。何度も噛み付いた喉から肩。舌先で辿った身体の盛り上がり、あるいは窪み。
火星までの距離を何往復も繰り返して、ようやく夜鷹は青の傍にいる。また行ってしまう日は来るが、それでも青の元へ戻ってくる。
繰り返し夜鷹は出掛け、戻る。青のいるところへ帰る。
青はその度安堵し、やすらぎ、悲しみ、淋しがり、自棄になり、孤独を味わう。
それを何度も何度も、分かっていながら突きつけられる。夜鷹に言わせればこれは青だけの痛みであり、青だけが味わえる特権だ。
青が青として生きているからこそ感じることの出来る唯一無二の絶望には、どこか淡い光が灯っていて、青は噛み締めて縋る。
「買い出し、なに買うんだ」と夜鷹は訊いた。
「正月に困らない程度の食料と酒。あと年越し蕎麦。餅はいいんだけど、小さい松飾りは買おうと思ってる」
「うにと蟹とあわびと伊勢海老とA5ランクの和牛も買って」
「おまえも金を出せ」
「あとローション終わっただろ、昨夜」
「人の話を聞いてくれ」
「除夜の鐘聞きながらやりまくる予定だからないと困る」
「煩悩吹き消されたら夜鷹とセックスなんかできないよ」
「お、なんだやる気あんじゃん」
向かいから伸びた夜鷹の足が膝の上にためらいなく乗る。行儀の悪い爪先を手で払う。
「朝だから」とたしなめるも、向かいの男はにやにやと笑うだけだ。
「紅白の勝敗賭けて、負けた方がボトムになるってのは?」
「賭けない」
「じゃあ顔射できる」
「夜鷹、朝だから」
「アダルトグッズ買ってみるのは?」
「夜鷹」
「上品ぶったってやることやってんだからいまさらだよ、青」
返す言葉がなくて黙る。
「おまえのことだから二年参り行きます、とか言いそうだったんだがな」
「混雑が嫌で初詣はいつも三が日をずらして行くんだ」
「ああ、おまえらしい。混んでるから行かないっていう選択をしない辺りが非常に」
「おれはおれでしかいられないらしいからな。夜鷹の理論だと」
「おれの理論じゃねえ。この世の物理だ」
食後の紅茶を飲んで、夜鷹は息をついた。
「来年の願い事は?」
にやりと笑って訊かれるから、「健康」と言葉を濁した。もうだいぶ、思う通りに結構叶ったとは言わないでおく。
end.
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プロフィール
HN:
粟津原栗子
性別:
非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。
****
2022*08*11-21
暑いですね。番外編短編、ちょこっと更新しています。
2021*12*04-2022*03*17
お久しぶりです。短編長編更新。
短編「さきごろのはる」
短編「月の椅子」
短編「みんな嬉しいお菓子の日」
長編「ファンタスティック・ブロウ」
短編「冬の日、林檎真っ赤に熟れて」
2021*08*16-08*19
甘いお菓子のある短編「最善最愛チョコレート」更新。
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