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成人女性を対象とした自作小説を置いています。
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「悪いがこっちが被害者なんでな。おまえが失禁して気を失っているところは記録させてもらった。これからおまえがおれの意に反するようなことをするなら、容赦なくデータを晒す。質問に答えろ」
 そう告げると、ぐうう、と宅間の腹が鳴った。腹が減っているか、と呆れたが、それも無理からぬ話だった。
「水ぐらいは分けてやる。今夜はそれでしのげ。一日ぐらい食わなくても死なない」
「……もう、あんたには歯向かう気もねえよ」
 宅間はみじろぎ、「せめて身体を起こしてくれ」と頼んできた。
「手足は拘束されたまんまでいい。というか、あんた上手いな、縛るのが。びくとも緩まねえ」
「職業柄ロープは使うんだ。知ってるだろうに」
「そこの、……玄関の扉に盗聴器仕掛けてたのもお見通しか?」
「調べたからな。だから利用もさせてもらった。おれはよくここで電話をしたり、八束さんと話をするから、……ただ、家の中まで侵入の様子はなかった。ないな?」
「ない。……何が訊きたい」
「動機だ。こんなことをした理由。今回は個人的にとどめるが次は警察沙汰にする」
「話をする。するから、身体を起こして座らせてくれ。……抵抗はしない」
 しおらしく宅間は言った。それを三分の一程度信用することにして、両手両足を縛ったまま材木からは男を解き放った。椅子に座らせたが、腰縄をつけ先は材木に結えつけた。犬にリードをつけたような格好だ。
 宅間は息をついた。
「……別に、ただおれは南波八束に未練があっただけさ」
 そんな気はしていた。私は宅間の言葉を待つ。
「あいつはさ、おれらみたいな世界のやつにはとんでもない魅力? 引き寄せるモンがあるんだ。まず身体つきがいい。暴力の振るい甲斐のある身体をしている。ぶつと真っ赤に腫れて、痛みで身体をくねらせる。それがそそるんだ。そして性的な快楽を得るくせに態度は屈しねえ。ねじ伏せたくてゾクゾクするよ……。それが冬のはじめぐらいから変わった。プレイそのものを拒むようになったがそれもまたこちらとしては火がつく。趣味で済ませられなくなった頃、もう関わりたくないと言われた。こっちとしては服従させたくて仕方がなかったから、諦めきれなかった。八束の理由を探るうちにあんたに行き着いた。あんたといる八束は明らかに普通なんだ。あいつの本性も知らねえくせにと頭にきてよ。おまえを潰して八束を潰そうと思った。失敗したけどな」
 宅間は唾を吐くように大袈裟に息をついた。
「あいつには中毒性があって、あの身体から離れられなくなる。依存するんだ。あいつの過去の男はどれもおれと似たようなろくでなしで、同じような感覚に陥るらしいぜ。ストーカーだと分かっていながらあいつを追いかけ回しているうちに、あいつとおまえの関係性に気づいた。煮え繰り返ったよ。あいつがまともじゃなかったらただの戯言ひとつと思ったが、あいつはあんたの前じゃまともなんだ。気味が悪くてよ……あいつがおまえに心酔しているのは明らかだったから、おまえを攻撃すればあいつにダメージが及んで、壊れると思った。おれはあいつを壊したかったんだ。あんたの大学に貼った写真は、あいつとのプレイでおれが撮った写真だ。ここまでやればあいつはおれに泣きつくと思ったが、あんたはあのことをあいつには漏らさなかったな。おかげであいつに被害が及ばねえし、挙句罠にははまるしよ。怖くなった。急にだ」
「何が怖いんだ」
「あんただよ、あんた」
 くつくつと自嘲するように宅間は笑った。
「とんでもねえサディスティックだ。おれより遥かにな。攻撃は冷静で正確、方法も熟知している。あんたに鑿突きつけられた時、八束みたいなマゾヒストを急に理解した。自分の力じゃ敵わねえと理解したときの、圧倒的な力の差が恐ろしくて、……自分を壊されるのが心地いいんだ。支配の喜びってやつ。……あんた、向いてるよ。ゲージュツなんかやってねえでこっちの世界に来いよ。たちまち人気もんだぜ」
「くだらない話だ」
「八束が虜になるのも分かる。だがあんたは八束には優しくする。なぜだ?」
「答える必要もない」
「そうかい。まあいいよ。……水をくれ」
 そう乞われ、ペットボトルの水を投げた。宅間の身体に当たって地面に落ちる。それを不自由な身体で拾い、不自由な手でひねって飲んだ。哀れな姿に同情さえ出来ない。
「どうせおれのことは調べ尽くしたんだろう」
 水を飲んでから、宅間は言った。
「尽くした訳ではないが、鍵は手にしたな。個人情報なら醜態まで手の内にある。もっとも、住んでる場所や職業までは把握してない。まあ、仕事っていう仕事もしてなさそうだ」
「住んでる場所なんか調べらんねえよ。ホームレスだからな」
 その答えはさすがに意外性があった。
「車中泊でその日にチンピラ仲間からもらう野暮用みたいなのをこなして金もらって暮らしてる。やる相手がいればホテルで寝る。車、見たんだろ。あれに積んでるのがおれの全部だよ」
「……その割にはあのカメラや機材は高額だと思うが」
「それにつぎ込んでんのさ。だから宿なし。……おれを縛って繋いだまんまでいいからよ、車まで連れてってくれ」
「何をする気だ」
「カメラ、機材、全部あんたにやる。そこには過去に撮りためた八束のデータもSDに記録したのが収まってる。とにかく全部あんたにやる。だからこれでもう解放してくれ」
「えー? 信じるかなあそんなことをさあ」
 声が割って入る。嵐を送って帰ってきた西川がいつの間にか背後にいた。

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粟津原栗子
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自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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