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失神したまま意識の戻らない宅間は最低限の拘束だけ施して日陰に横たわらせておいた。「とりあえず食べよ」と妹の嵐が言い、真夏の焼肉パーティとなった。状況が状況なのでノンアルコールだ。
今回、中距離から時折攻撃を仕掛けてくる相手に対してどうすべきかは私なりに対策を練った。やり口からしておそらく単体。悪さをする動物は罠を張りおびきよせ捕獲し、その上で仕置きをするのが常套かと、その辺りをまずは大学からの友人である西川に相談した。やはり私のスキャンダルなら安直に飛びつくだろうが、八束には一切関わらせたくない。妹・嵐にスキャンダルの相手を頼むことを思いついた。そして西川と会社の同僚である日瀧という青年にも協力を仰ぎ、SNSのグループトークでやり取りを重ねた。
作戦を練るに当たっては、私が受けた被害を共有する必要もあった。すなわち八束のことも明らかにする必要があったのだが、最初の相談で西川に「そのヤツカさんて人の性癖というか趣味まではさ、みんなで知ってなくてもいいんじゃない? 付け回されて写真撮られたってぐらいでさ」と言われたので、妹と日瀧には積極的に訊かれない限りは言わないことにした。八束と私自身の関係に関しても「大家の息子で仲の良い人」ぐらいにとどめた。全てを話したのは西川ぐらいだ。学生からの付きあいで、あいつこいつは誰を好きで付きあって遊んで、互いの脛の傷のことも知っている。ただ離婚後一貫してひとりを貫いた私の久々の相手が同性だというのは少々驚くべきことであったらしかった。
まあ餌を撒いてみたら、となった。スキャンダル、分かりやすく浮気。わざとらしい電話や行動を、監視や盗聴を踏まえた上で行う。実際、調べてみたら盗聴器が入り口の扉付近に仕掛けられたいた。餌を撒く私と相手役に妹、捕獲の実働部隊に大人の男ふたりで西川と日瀧。結婚しても実家のあるSに住む嵐に頼むと、何事も「面白そう」と捉える妹には魅力的なシナリオとなったらしい。協力要請にはむしろ率先して引き受けてもらえた。西川も日瀧と日を合わせて休みを取り、本日決行となったのだ。
一回の罠で本人を捕まえられたので、あまりの安易さにかえって腹が立った。先ほども西川たちに実感を述べてみたが、計画性のない、気分だけで行動を起こす短絡的な男としか思えなかった。目的は不明だが、八束を傷つけたい意図は明らかであり、そこには陰湿な要素を感じた。ため息が出る。こんなのはさっさと終わりにしたいし八束に告げずに済ませたい。
アルコールの入らない会なので、満腹になるとそれで終わりになった。暗くなる前に嵐は銭湯に行くと言って出かけ、日瀧は残った方がいいかと気を遣ってくれたが、結局は泊まらず家族の元へ帰った。庭で一斗缶に火を焚きながら、西川と話をする。件の男は目を覚まさなかった。
インターネットを叩きまくっていたデザイン科卒の男は、「これ見て」とパソコンの画面を私に見せた。ブラックに彩度の鮮やかな赤字の見づらい画面で、「紅縄会 西道茂美」と大きくタイトルが書かれている。ブログ記事だったが更新はもう何年もされていないようだった。
プロフィール欄に西道茂美なる男の顔写真と自己紹介文が記されていた。そこには「縄師。肉体を束縛されたい貴方へ極上のオーガズムを」と書かれており、あからさまなアダルト記事に私は眉をひそめた。
「縄師って緊縛師のことだよな。SMプレイのどうのこうの。元は職業だろ。江戸時代の」
「お、さすが知ってるな。ロープワークの経験者としてはそこは常識なんか? まー、こっち方面は僕もよく分かんないけどー。緊縛師の集まりの主催者のブログみたい」
「プロフィールの西道って男が? おれらより年上のおっさんぽいんだけど」
「なんか調べてたらさ。あの宅間って男はどうやらこの西道って男のところに出入りしてたらしいよ。ブログ記事にチラッと記述があるし、写真もそれらしいのが写ってる。だから縄の基本は教わってるってことなんじゃない? もっとも、この西道って男の下っ端な扱いで、数ヶ月でやめてるみたいだけどね」
道理で、と私は納得した。いつか八束についていた縄の痕や背中の傷は、決して要領を得たものではなかった。かといって素人が見よう見まねでやるにしてはコツを多少は知っているというか。厭な痕だった。
「サドマゾのあたりは、おれにはわからん」と私は火を火ばさみで調節しながら答えた。
「いやー、おたくには芸術の名の下なら充分サディスティックになれる要素満載だと思うけどね。さっきの脅しとか」
「こいつもサディスティックの要素に入るのか? ふるえてたぞ」
「経緯までわかんないけどさー。そのヤツカさんて人がこいつと関係を持ってたってのはほぼ間違いがないんだろ? それはやっぱり、SMの要素があったんだと思うよ。まあ、そこから先は鷹島とヤツカさんとの関係性だからな。僕は突っ込まない。おまえはヤツカさんとはきちんと話をすべきだね。職を追われるような被害まで受けてるんだし。嫌がらせはヤツカさんもそうなんだろ?」
ノートパソコンを閉じ、西川はアルコール代わりのジンジャーエールを煽った。
「おたくらがそういうプレイしてんのか、ってのは僕にとっちゃ他人事だからさ。訊きゃしないけど。でも聞いた話だとそのヤツカさんて人は身体を痛めつけられて喜びを得るような性癖っぽいから。鷹島が人を傷つけてるところは、芸術のためなら残念ながら納得がいくし。羊の解剖だの恋人縛るだの、学生時代は無茶やってたのを知ってるからな。才能あんじゃねえ?」
「おれは八束さんに暴力も縛ったこともないよ」
「ならヤツカさんの方にフラストレーションが溜まってて、その矛先がこいつ、宅間だったりしてな。ま、これは僕の推測。まあ、いずれせよおたくは社会的な立場を犯されているわけだから、ヤツカさんの方だってそうかも知んないんだし、現状把握をするためにも話は訊かないとな。ヤツカさんと、宅間に」
「……」
そのうち嵐が戻ってきた。血縁であるので宿泊は全く構わないのだが、宅間と同じ空間に休ませるわけにはいかない。駅近くのビジネスホテルへと西川が送ってくれるというので甘えて、私はコーヒーを入れた。氷をぶち込んでキンキンに冷たくする。
水辺のおかげで湿気がじっとりと肌の上を撫でるが、吹く風は涼やかなものに変わりつつあった。水の冷気で明け方は涼しさが滲む。目の前でぱちっと火ははぜ、最後の熱を放射して消えていく。
立ち上がり、宅間の傍へ寄る。彫刻に使う巨大な材木に縛り付けてあるだけだった。宅間の目はあいていた。なんだ、と息をつく。
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甘いお菓子のある短編「最善最愛チョコレート」更新。
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