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成人女性を対象とした自作小説を置いています。
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 商店街で生鮮食品から加工食品までありとあらゆる買い出しを済ませ、再び倉庫へと戻ったのが十三時過ぎだった。あらかじめ倉庫の入り口から庭の方向へタープを張っており、日陰にバーベキュー用の簡易グリルにテーブルや椅子などを準備してあった。「その前に」と私はワンピースの女の腕を取る。抱き寄せて髪に顔を埋めると女はくすくすと笑った。
「外は暑いから中ですることをしようか」
「中も暑くなると思うな」
「指輪、外して来たのか」私は女の左手をなぞる。彼女はしなやかに身体を逸らせた。
「前に会った時はセノの方が指輪をしてたね。いまは逆になっちゃった」
「結婚生活、どう?」
「穏やか。刺激がたりない」
「だからこんなことになる」
 そう言って彼女を抱き寄せたまま、椅子に深く座った。女は私の膝に乗りあげる。
「やっぱり暑いね」
「中で水でも浴びる? うちは風呂がないからこの時期はたらいに氷水を張るんだ」
「水着持ってくればよかった。そこの川で水遊びが出来る?」
「ここはちょっと深いかな。先へ行けば親水公園になってるけど、人も多いだろう」
 女はサンダルを脱いで裸足の足をぷらぷらさせた。そのふくらはぎにも触れる。
「まだ?」女が私の耳元で囁く。耳にはイヤフォンが嵌まったままだった。
「そろそろだろうな」
「いい加減に暑いな」
「まだお楽しみはこれから」
 と言うと同時に、イヤフォンから『いや、充分だ』と音声が入った。イヤフォンのスイッチに触れ、通話に切り替える。
『捕まえたぞ』と一報が入った。
「場所どこだ?」
『おたくが睨んだ通りさ。河川敷の藪の近く。方角ドンピシャ。こっちの方見てみ?』
 そう言われ、女を膝の上から退けて川の方を向いた。藪の中にキラキラと光るものがある。手鏡を太陽光に反射させて居場所を知らせていた。
「確認した」
 言うなり私は一気に走り出した。庭先を超えて川辺の道を突っ切り、護岸をくだって藪を体当たりするようにかき分ける。ほんの数十秒の距離だった。そこには三人の男がいた。
 ひとりは立って片手に鏡を持っていた。もうふたりは地面に伏している。正確には痩身の若い男を別の男が押さえつけていた。地面に倒された男の両手両足を封じ、馬乗りになって抗う身体を押さえつけている。
 周囲にはカメラ機材が散らばっていた。せっかくの望遠カメラも衝撃でひしゃげている。そのかけらを拾い、私は地面に倒されている方の男に近寄った。男はもがいていたが、私を見て余計に身体を捩る。その抗いを、馬乗りの男は首の後ろに圧をかけてさらに封じる。
「こいつこいつ。カメラで盗撮してた不審者。声かけたら逃げようとしたからこの通り確保」
 鏡をポケットに仕舞い、キャップをかぶりなおして立っている男が笑った。
「悪いな、西川。日瀧さんもありがとう」
 それを聞いて不審者はさらに抵抗したが、馬乗りになっている方の男――日瀧に「動くな」と凄まれて動きを止めた。
「さて」真昼の太陽光が天から降り注ぐ。西川は機材を拾い、カメラを確認した。レンズは無事でなくても、本体は無事だったようだ。ピクチャを再生すると庭先の椅子の上で絡みあっている男女――先程の私たち、が撮影されている。八束と一緒にいるところを撮られた時の画角、そのままだった。
「こいつ知りあい? 若いチンピラ崩れって感じ。栄養悪そうよ? 日瀧くんに一撃で倒されてさあ」
「まあ、これだけの機材を揃えるとなると金はいくらあっても足りないだろう。知りあいではない。でも見たことはある」
 冬だ、と私の肌には夏の暑さとは違う寒気が一瞬にして沸きたった。冬、西川に教えてもらったと言って夏衣と行ったもつ鍋の店を出て、歩いた先にあった繁華街脇のコンビニ。出くわした八束の傍にいた蛇のような男。
 砂利を踏み、男の顔の傍にしゃがんだ。男は暑さか恐怖か疲れか、そのどれもかで、威勢をなくしつつあった。
「春先から南波の家をつけまわし、その後ターゲットをおれに変えてつけまわし、大学にいたずらをした。お前だな?」
 男はうっすらと目をあけた。呼吸は荒く、口の端から唾液が垂れている。
「ま、間違いないっしょ。カメラの画像、鷹島ばっかりだし」と西川が口を挟む。
「名乗れ。そして目的を言え」
「……かよ、」蚊の鳴くような声が地面を這いずる。


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便利な西川くん。

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粟津原栗子
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非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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