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成人女性を対象とした自作小説を置いています。
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 〈着いたよ〉
 ミラーで周囲を入念に確認する。私が車を停めている駅のロータリーには数台の車が停まっていた。夏休みゆえかいつもより多い。私の車の後方に黒い軽自動車が停まり、それを遮るように何台かのタクシーが停車していた。パキッと指の関節を鳴らす。スマートフォンに触れ、メッセージを送る。
 やがて駅舎からノースリーブのワンピースの裾を翻して女性が現れ、私の車のウインドウをコツコツと叩いた。つばの広い帽子をかぶり、やはりサングラスをかけている。だがウインドウを下げるとサングラス持ち上げた。
「お待たせ」
「待ってた。早く乗って」
「ねえ、このワンピースを褒めてね。勝負服なんだから」
 彼女はそう言いながら荷物を後部座席に乗せて、助手席へと乗り込んできた。白地に赤い花柄のボタニカルなワンピースは夏の太陽に負けず、鮮やかで目立った。
「友達の作ったテキスタイルをワンピースにしてもらったの」
「とても似合ってる」
「ありがと。セノに見せたかった」
「髪も伸びたな」
「伸ばしたの。癖っ毛だからいままでずっと短くしてたんだけど、夏は縛ってまとめちゃう方が楽で涼しいから。――セノも、」
 彼女の手が頬に伸びる。
「髭なんか生やしちゃって。男らしくていいね。海外の俳優さんみたい。セレカジって感じのカッコ」
「今日はね。特別気合い入ってんだ」
「楽しみ。まずどこに行くの?」
「商店街の肉屋と酒屋と八百屋。魚屋と和菓子屋も寄ろうか。今夜の支度だ」
「いいね。リゾートの気分出てきた」
 嬉しそうに彼女は笑った。珍しくリップを塗っているようだった。赤い唇が弧を描く。
「悪いな。がっつり付き合わせるぞ、ラン」
「遠出が久しぶりで楽しい。ワクワクしてる」
「じゃあ」再び周囲に目線を走らせる。それからウインカーを出した。
「シートベルトして。行くよ」
「うん」
 ゆっくりと車を発進させる。駅のロータリーを出る際に後方を確認すると、間を置いて後続に軽自動車がついた。車間距離を適正から外さぬよういつもより目線を走らせる。
 耳にはめているワイヤレスのイヤフォンに音声が流れ込んだ。
『かかった。距離OK』
 私は隣に座る女の肩に触れ、指の腹で二回叩いた。彼女は楽しげに笑う。
「商店街ってどこにあるの?」
「ここからだと三十分ぐらいかかるかな。すずらん商店街、って言うんだ」
「可愛らしい名前だね。昭和チック」
「実際、古いと思うよ。老舗の店が多い。ランは気に入るさ」
「喉が渇いたなあ」
「後部座席のクーラーボックスに飲み物入れてある。アルコールもある。好きにしていい」
「贅沢だね」
 彼女は窓から手を出してひらひら振った。


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プロフィール
HN:
粟津原栗子
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非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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