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成人女性を対象とした自作小説を置いています。
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 無事を安堵した。「南波、います?」と訊ねる。私はあえて微笑み、「きみを待ってたよ」と部屋に招き入れた。
「四季ちゃんから話を聞いてたところ。不審な車があるそうだね」
「あ、そうっす。おれも機動力があるわけじゃないんで、ちょっと遠目に見てただけなんすけど……今日は親父からデジカメ借りてたんす。それで遠くから写真撮りました」
「お手柄。だけど危ないな。こっちおいで。なにか飲み物出そう」
 私と共にやって来たえっちゃんを見て、四季は泣きそうな顔で立ち上がった。
「えっちゃん」
「南波、ここまで大丈夫だったか?」
「多分大丈夫……」
 会話をぽつぽつと交わす中学生らを横目に、私はグラスに炭酸水を注いだ。八束のアドレスに「四季ちゃんとえっちゃんを預かるから仕事が終わったら連絡して」と短くメッセージを送る。それからふたりの元へ戻った。
 四季には八束に連絡をした旨を告げ、えっちゃんには「きみもご家族には連絡した方がいいんだけど」と言う。
「あ、おれんち今日のことは知ってます。南波に相談されたとき、親には言ってあるんで」
「きみがデジカメを借りた理由も?」
「はい。本当はスマホ渡したかったらしいんですけど、学校はスマホだめだから」
「じゃあとりあえずおれのを貸すから。ご家族には一報入れよう。もっとも、おれはきみらの保護者ではないから充分に得体のしれないおじさんだ。帰りはふたりとも送ってくつもりがあるけど、ご家族が疑うようなら迎えを頼んでみて」
「分かりました。ありがとうございます」
 えっちゃんは私が差し出したスマートフォンを受け取り、家族のナンバーを記してあるメモを取り出してその場で連絡をした。途中、替わってくれと言われて電話を替わる。えっちゃんの母親だという女性が「正敬がお世話になっております」と電話口で告げた。
『私がこれから迎えに行きますし、四季ちゃんもおうちに送り届けたいと思います。ただ、自宅に送っていいのかが分からず……』
「先ほど四季さんのご家族には連絡を入れました。折り返して連絡が来ると思います。それまでひとまず、私の元で預かっているか、もしくは公共の施設……人目があるような図書館ですとか、駅のカフェとか、そういう場所で待機するのはどうでしょうか。新村さんさえ良ければ、新村さんのお宅に避難するのも手です」
 色々と相談しあった結果、四季とえっちゃんは八束かえっちゃんの家族の到着を待つまで私の倉庫に待機となった。改めてふたりを見ると、四季は不安と緊張でぐったりしており、えっちゃんがその背をさすっていた。作業場のガラス窓は大きいためブラインドがあっても外から目につきやすい。私の居住スペースのソファにふたりを座らせた。
「えっちゃん、カメラ見せてくれる? 画像、確認してみようか」
「あ、ハイ」
 えっちゃんに渡されたデジカメのコネクターの口を確かめ、このタイプならケーブルがあったはず、とパソコン周辺機器を収めてある箱を探る。接続はうまくいき、複数の画像がパソコンのモニターに表示された。薄暮の時間でもフラッシュを焚かずにうまく隠し撮りがされていた。画像の編集ソフトを開き、色あいを調節して画面を明るくする。
 南波家の近所、路肩に寄せた黒い軽自動車のバックから撮られた写真だった。ナンバーも読める。乗車している人物の詳細は分からない。ただひとりであること、おそらくはニット帽をかぶった男性であることは分かった。
 不安そうにモニターを覗く中学生らに、「このナンバーや車や、ここに乗ってる人に見覚えあるかな」と訊いてみる。
「んん……ない、かな」
「学校とかで不審者情報を聞いたことは?」
「それもないです」
「そうか」
 画像をカチカチと拡大してみたが、乗っている人物ははっきりしなかった。
「――まあ、冷静に判断すれば、これはまず学校に報告した方がいい。目的がはっきりしないけど、四季ちゃんか南波家を狙ってつけまわしているようなら、警察にも相談すべきだ。えっちゃんが六時で切り上げるまで、この車は動かずにあった?」
「いました。じっと動かずって感じで……通り過ぎるフリで顔でも見えねーかなーとか思ったんすけど、やめました」
「うん、やめた方がいい。隠し撮りだけで充分危険だ。四季ちゃん、今日大家さんは?」
「あ、社交ダンスに行ってると思う……」
「帰りは同じサークルの人に送ってもらえてるんだっけ」
「うん」
「なら大丈夫かな。南波家はわりとばらつきやすい家庭環境だ。家族同士じゃなくても、ひとりにはならない方がいいな」
「え、じゃあヤツカくんも?」
「あの人こそ、……噂したら本人かな」
 私のスマートフォンが鳴動する。仕事を終えた八束からだった。電話に出ると八束は「何が起こってる?」と単刀直入に訊いた。
『新村さんのお宅からも連絡が入ってたんだ。折り返して事情は聞いた。不審者?』
「なんだと思う。いま四季ちゃんもえっちゃんもミナミ倉庫にいるよ。来られる? あなたもあまりひとりで動かない方がいいと思う」
『僕も危ないのか? 中学生目当てじゃなくて、』
「相手の目的が判明しない以上はね」
 八束はいま駅のロータリーでバス待ちだと言う。行き先をミナミ倉庫に変更し、ここへ直接来てもらうようにした。立て続けに着信が入る。こちらはえっちゃんの父親からだった。近くまで来たと言うので電話を持ったまま外へ出る。ちょうど川沿いの道を乗用車が上って来るところで、私は手を挙げた。
「セノさん? ですか?」私とそう年齢も変わらないのではないか、という見た目の男性が車のウインドウを下げて訊ねる。目元も肩の感じもえっちゃんそっくりだった。
「はい、新村さんですね。息子さんたちいますのでそちらに車停めてください。四季さんの保護者の方もじきに来るそうです」
「いや、えらいことに巻き込んでしまって。いま女房に学校の担任に相談させてます」
「ひとまず中でお話ししましょう」
 新村父は器用に車を反転させ、ガレージの空きスペースに車を停めた。彼は私に対して多少警戒していたようだが、息子とそのガールフレンドの姿を認めてほっと息を吐き、「無茶はしてないだろうなあ?」と息子の肩をぱんぱんと叩いた。



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粟津原栗子
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自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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