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何を頼んでいいのか分からなくて、メニューを見て戸惑っていると隣のテーブルから「ママ、モスコミュール」と聞こえてきた。どういうものか想像つかないが名前を聞いたことがある。だから八束も「モスコミュールを」とオーダーした。
カウンターの中で女装した男性がにっこりと微笑み、「はじめて見るお顔ね」と言った。
「それともこういうお店もはじめてなのかしら」
こくりと頷く。そう、はじめて来た。いわゆる「こういう界隈」に。ものすごく勇気を出して。
店内は薄暗い照明で、何組かの客がいたがカウンター席に座っているのは八束だけだった。ママ、と呼ばれるこの男性が女装しているせいか、そのような格好をしている男性もいるし、まだ五月なのに露出の高い服装で筋肉を見せている男性もいる。もしくはシュッとした、ごく普通のサラリーマンのようないでたちの男性も。よく分からないがここにいる者が皆「同士」であることは分かる。
カウンター内のママは、「なら教えてあげる」と指をピンと一本立てた。長い爪は綺麗なネイルが施されているが、そのふしくれた指は男性のものだ。
「この店は主にカップルしか来ない。ここで一杯引っ掛けてからホテルへ行くなり、会話を楽しむなり。相手が欲しいならよそへ行くわ。初歩的で良心的な店なの。だからあなたがそういう相手を求めてここへ来たっていうなら、これからお店をいくつか紹介できるけど。ここじゃあないわね。相手が欲しい? 待ち合わせとかじゃないわよね?」
頷く。どちらの質問に対してもイエスのつもりで。
「学生さん?」
「……大学生です」
「あら。もしかして未成年?」
「いえ、二十歳」嘘をつく。八月がくれば成人するが、まだ年齢には達していない。
「あの、……相手ってどうやって探すんですか?」
「ああ、……この界隈はいろんな人がいるから。そうね、いまちょうど面倒見のいい人たちが来てるから呼んであげる。教えてもらうといいわ」
そう言ってママは奥まった席に座って談笑していた男性ふたりに声をかけた。先程のサラリーマン風の男性と、綺麗めの私服を着た男性だ。ふたりとも八束ほどではないけれど若い。「はじめてなんだって。教えてあげて」と声をかけると、気前よく「いいですよ」と返事があった。
サラリーマン風の男性が八束を値踏みするかのような目つきで上から下まで見て、「ふうん」と答えた。
「男同士に興味がある?」
「……魅力を感じるのは男性です」
「ネコかな、タチかな? 見た目ネコっぽいけど」
「ネコ?」
「どっちがセックスでボトムになるかの方。もちろん、いろんなセックスがあるから一概には言えないけど」
「……僕は、傷つけて欲しいです」
お、と私服の男性の方が眉を上げた。
「自分の身体が嫌いだから、痛めつけられたらほっとするのかな、と」
「それは相手が男性でなくてもいいってこと?」
「……好きになるのは同性なので、……同性から痛めつけられたいんだと思います」
「サディスティックなことをされたいと思う?」
「……多分。あまりよくは知らないんですけど」
「サディスティックなことをされたいと思う?」
「……多分。あまりよくは知らないんですけど」
するとふたりは目を見合わせ、クスリと笑った。
「ならこれからおれたちと一緒に来る?」
「え?」
「ゲイセックスを見てみたいと思わない?」
唐突な提案。唐突な展開。それはものすごく勇気のいる事柄で、でも好奇心には逆らえなかった。
三人揃って店を出て、談笑しながら歩いてホテルへ入った。ホテルはこういう場所にしては地味なのだと思うが、そもそも来たことがないので比べようがない。エレベーターの中でふたりは先ほどまでの爽やかさが嘘のように唐突にキスをしはじめた。八束の前でねっとりと堂々と。それを映画でも見るかのように八束は見ていた。まだ現実感が湧かない。
至ってシンプルな部屋に着いて、「きみはそこで見てるといいよ。なにか注文する?」とソファを示された。腹は減っていない。緊張しているから。水が欲しい。慣れないアルコールが回っている。そう伝えると、ミネラルウォーターを用意してくれた。
「ま、見ててよ。僕らもね、多分きみと同じ嗜好だから。ただ、パートナー以外の相手とやらないってだけで」
え、と聞く間もなく、綺麗めな私服の男の方がスーツ姿の男に四つん這いになるように命じた。先程まで薄く笑っていただけの人が豹変する。さっぱり乾いた爽やかさに熱を帯びたのではなく、蔑んで冷却したかのような空気を瞬時にまとった。怖い、と思い、それがゾクゾクした。
――口だけ使って咥えろ。
そう命じると、スーツ姿が恍惚とした表情で私服の男の股間に顔を埋めた。ジー、と噛み合わせを歯で解いていく。犬のように私服男の一物を取り出すと、それをぺちゃぺちゃと舐め、頬張った。
――下手くそ。そんなんじゃ勃たねえよ。
私服男のものは、兆してはいるが力なかった。それを一生懸命に舐める。スーツ男の腰が揺れ、太腿をもじもじと擦り合わせていた。こちらは勃起しているのが分かる。
――脱げ。今日はゲストがいるんだから、そっちを向いて脱げ。ちゃんとサービスして見せてやれ。
八束はびっくりして思わずソファに身を縮めた。スーツ男は立ち上がり、頬を朱に染めてスーツをゆっくりと脱いでいく。ショーガールかのように身をくねらせて。上着を落とし、タイを落とし、スラックスを落とす。脱いでいく中で私服男がタイを拾い、それをスーツ男の目元に巻いた。
――見せてやろうぜ。おまえがどんなにだらしなくて、淫乱な豚なのか。
再びスーツ男(でももはやスーツは纏っていない)を四つん這いにさせると、スラックスから引き抜いたベルトで背中をぶった。悲鳴が上がる。その声は艶を帯び、尾を引く。明らかに快楽を感じており、男のものは勃起してたらたらと蜜を床に垂らしていた。
――あっ、ああっ、痛いっ。ああっ。
――言ってみな。ご主人様のペニスで私のアナルを犯してくださいって。
――ああっ、あっ、嫌っ、見てる……!
――見せてんだよ。見られておまえは興奮してんだよ。ドロドロじゃねえか。変態。
またベルト。ばし、ぱちっ、と音が響く。
こんなことされてもパートナーだというのか、と八束は興奮と冷静を交互に噛み締めて思った。
喜びが伝わる、双方の喜びだ。傷つけて喜び、傷をつけられて喜ぶ。興奮を生んで部屋が熟む。これ以上は、もう、と八束はかぶりを振った。スーツ男が目隠しされたまま背後から犯されているのを、股を広げて見せられた時だった。
こうされたい? わからない。でも優しくされたいわけじゃない。僕は興奮している。
ここを出なければ。誰か、僕を治めてくれないか。
部屋を出てホテルを出た。夜の湿気が肌を撫でたが興奮が治まらない。フラフラと歩いていると、「お兄さん」と声をかけられた。
タンクトップのスポーツ刈りで、やたらとピチピチした格好でボディラインを強調する服装の男が電柱にもたれて立っていた。
「あ、若いね。若い子歓迎。探してるんでしょ、いま。あそこのクラブで面白いことしてるからさ、来ない?」
ごくりと生唾を飲んで、男についていった。
僕をいじめてくれないか。誰か。
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短編「冬の日、林檎真っ赤に熟れて」
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甘いお菓子のある短編「最善最愛チョコレート」更新。
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