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暁登を駅に降ろしてすぐ、車を路肩に停車させたまま樹生は自分のスマートフォンを取り出した。検索サイトを開き、先ほど暁登のメールを見た際に得た情報を入れてゆく。メールアドレスとユーザーネームぐらいしか得てはいないが、それでも探っていくと当たった。表示された検索結果のひとつを樹生は開く。淫猥な広告のバナーがたくさん貼られたサイトだった。
『ヤシオ 二十歳 身長百七十五㎝ 体重五十二㎏ 痩せ型 初めてなのでリードしてくれる人』
そんなそっけない、要点だけの文面とともにメールアドレスが貼りつけられていた。こんなに無防備ではどんな危険に晒されてもおかしくなかった。昨夜のことを思うとうっすらと背筋が寒くなる。自分が仲間と飲んで楽しんでいた頃、もし暁登の前に相手が現れてあの頼りない体を攫っていったとしたら。雑居ビルの下から消えていたとしたら。暁登があんな風に頼りなげにうなだれていたからつい声をかけたが、痕跡すらなくいなくなっていたら、おそらく自分は暁登のことなど忘れていただろうし、連絡を取ろうともしなかったと、思う。
貼られた写真は、暁登の腹だった。
自分で衣類を捲り上げた、そのごつごつとした細長い指も少し写っていた。上からのアングルで、脇腹を中心に撮ってあったが、その肌の滑らかさもさることながら、履いているジーンズの腰回りに息をのんだ。ウエストが緩すぎて、奥まで見えそうで、だが濃く影が落ちているのでよく見えない。
そそられてしまう自分を最低だと思った。こうやって男を釣ったのだと思うと急激な焦りが湧く。この心臓の高鳴りをどうしてよいのか分からなかった。暁登の体を意識してしまった、初めのはじめだった。
コンコン、と車のウインドウを叩かれ、樹生は我に返る。訝しそうな顔をした老年の男が立っていて、「M市役所駅前整備係」と書かれた腕章をつけていた。樹生は慌ててスマートフォンを仕舞い、ウインドウを下げる。
「ここねえ、駐車禁止なんですよー」と男はやたらと大きな声で言った。
「すみません。すぐ動かします」
頭を下げ、樹生は車をゆっくりと発車させた。もしかしたらスマートフォンに表示されたいかがわしい内容でも見られたかもしれない。街中ですべきことではなかったのだが、一刻も早くと焦っていた。
帰宅してすぐにスマートフォンを開いた。暁登のあの腹の写真をもう一度見たいと思ってしまった自分はどうしようもない。衝動に突き動かされて樹生はサイトを開いたが、もうそのページにたどり着くことは出来なかった。情報はどんどん更新される。淋しさや性衝動や気の迷いや詐欺、そんなものを書き込む輩は本当に多く、暁登は静かに埋もれてしまった。樹生は諦めてスマートフォンを放った。
絶対に暁登へ連絡を取って、また会おう。会いたい。会わなければならない。そう決意して、少しだけ眠った。
『ヤシオ 二十歳 身長百七十五㎝ 体重五十二㎏ 痩せ型 初めてなのでリードしてくれる人』
そんなそっけない、要点だけの文面とともにメールアドレスが貼りつけられていた。こんなに無防備ではどんな危険に晒されてもおかしくなかった。昨夜のことを思うとうっすらと背筋が寒くなる。自分が仲間と飲んで楽しんでいた頃、もし暁登の前に相手が現れてあの頼りない体を攫っていったとしたら。雑居ビルの下から消えていたとしたら。暁登があんな風に頼りなげにうなだれていたからつい声をかけたが、痕跡すらなくいなくなっていたら、おそらく自分は暁登のことなど忘れていただろうし、連絡を取ろうともしなかったと、思う。
貼られた写真は、暁登の腹だった。
自分で衣類を捲り上げた、そのごつごつとした細長い指も少し写っていた。上からのアングルで、脇腹を中心に撮ってあったが、その肌の滑らかさもさることながら、履いているジーンズの腰回りに息をのんだ。ウエストが緩すぎて、奥まで見えそうで、だが濃く影が落ちているのでよく見えない。
そそられてしまう自分を最低だと思った。こうやって男を釣ったのだと思うと急激な焦りが湧く。この心臓の高鳴りをどうしてよいのか分からなかった。暁登の体を意識してしまった、初めのはじめだった。
コンコン、と車のウインドウを叩かれ、樹生は我に返る。訝しそうな顔をした老年の男が立っていて、「M市役所駅前整備係」と書かれた腕章をつけていた。樹生は慌ててスマートフォンを仕舞い、ウインドウを下げる。
「ここねえ、駐車禁止なんですよー」と男はやたらと大きな声で言った。
「すみません。すぐ動かします」
頭を下げ、樹生は車をゆっくりと発車させた。もしかしたらスマートフォンに表示されたいかがわしい内容でも見られたかもしれない。街中ですべきことではなかったのだが、一刻も早くと焦っていた。
帰宅してすぐにスマートフォンを開いた。暁登のあの腹の写真をもう一度見たいと思ってしまった自分はどうしようもない。衝動に突き動かされて樹生はサイトを開いたが、もうそのページにたどり着くことは出来なかった。情報はどんどん更新される。淋しさや性衝動や気の迷いや詐欺、そんなものを書き込む輩は本当に多く、暁登は静かに埋もれてしまった。樹生は諦めてスマートフォンを放った。
絶対に暁登へ連絡を取って、また会おう。会いたい。会わなければならない。そう決意して、少しだけ眠った。
「――なんでそんなこといきなり言い出したの?」と、再会とその後のことを会話した後で、暁登に尋ねる。暁登は「なんとなく」と答えた。
「今日は早先生のところに作業しに行ったわけじゃなかったから、先生とお茶飲みながら喋ってて」
「うん」
「先生が、亡くなったご主人のことを話してくれたんだ。これってさ、結構珍しいんだ。先生の所に通い始めて一年? 二年は経たないけど、なんかまあそんくらいで、おれはそういう話をあんまり聞いたことがなかった。早先生の中ではまだご主人てのは生きたままの人で、語るのも辛いとか、そういうのなのかなって勝手に想像してたんだけど」
「……」
「今日はするっと話してくれたんだ。よく本を朗読し合ってたって。声のいい人だったからその時間が心地よかったって。早先生もやっぱ先生やってただけあるよな。あんまり声を荒らげない人だけど、声の通る人だと思う。だから余計にあんたの声が聞きたくなった、無性に」
「待て待て、なんか飛躍がないか、いまのところ」
ふたりが本を朗読し合っていた話から、樹生と暁登の出会いの話は結び付かない。けれど暁登は楽しそうに笑った。
「要するに、早先生とご主人の関係を、いいなと思ったんだ。思ったらあんたのことがすごく恋しくなった。おれたちにも『いいな』って思えるところないかなって、確認したくなったんだ」
「それで昔話?」
「かな。あとはあんたの声のこと。あんたの低い声、特に寝起きとか、熱とか出してるときとかの、掠れてさらに低くなってる音。あれがいい」
「……聞きたくなった?」
「毎日聞いてるのにな。不思議と飽きない。毎日いいって思ってる」
今日はやけに素直だな、と樹生は思う。調子がいいのだろう。雨の日でもこれだけ元気でいてくれると、病に伏せっていた身にはなんだか存在が染みた。
→ 21
← 19
「今日は早先生のところに作業しに行ったわけじゃなかったから、先生とお茶飲みながら喋ってて」
「うん」
「先生が、亡くなったご主人のことを話してくれたんだ。これってさ、結構珍しいんだ。先生の所に通い始めて一年? 二年は経たないけど、なんかまあそんくらいで、おれはそういう話をあんまり聞いたことがなかった。早先生の中ではまだご主人てのは生きたままの人で、語るのも辛いとか、そういうのなのかなって勝手に想像してたんだけど」
「……」
「今日はするっと話してくれたんだ。よく本を朗読し合ってたって。声のいい人だったからその時間が心地よかったって。早先生もやっぱ先生やってただけあるよな。あんまり声を荒らげない人だけど、声の通る人だと思う。だから余計にあんたの声が聞きたくなった、無性に」
「待て待て、なんか飛躍がないか、いまのところ」
ふたりが本を朗読し合っていた話から、樹生と暁登の出会いの話は結び付かない。けれど暁登は楽しそうに笑った。
「要するに、早先生とご主人の関係を、いいなと思ったんだ。思ったらあんたのことがすごく恋しくなった。おれたちにも『いいな』って思えるところないかなって、確認したくなったんだ」
「それで昔話?」
「かな。あとはあんたの声のこと。あんたの低い声、特に寝起きとか、熱とか出してるときとかの、掠れてさらに低くなってる音。あれがいい」
「……聞きたくなった?」
「毎日聞いてるのにな。不思議と飽きない。毎日いいって思ってる」
今日はやけに素直だな、と樹生は思う。調子がいいのだろう。雨の日でもこれだけ元気でいてくれると、病に伏せっていた身にはなんだか存在が染みた。
→ 21
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樹生の車に乗り込んでしばらくして、暁登は「でも」と言った。先ほどの続きがあるらしかった。
「ん?」
「岩永さんの方がすごいと思います。学歴から言ったらおれの方がいいかもしれないですけど、……でもいまは正社員で、ちゃんと働いています。おれはただの引きこもり。あの、……岩永さんの働き方って、憧れで」
「なにがよ」樹生はつい笑ってしまう。だが暁登は真面目だった。
「線引きができるところというか。岩永さんって教え方も上手いし面倒見いいですけど、適当に放り投げるし、見ないふりもしますよね。判断が早くていつも冷静で、それって会社のシステムや状況を理解してなきゃできないし、頭の回転が速くないとやっぱりできないと思う。コミュニケーションも上手いし、おれみたいに、言葉に詰まったり選んだりってことがないなって。……なんでもできるな、って、思っていて……」
「べた褒めだね」
「尊敬しているんです」
「おれ程度が尊敬の対象なんかじゃだめだよ」
樹生は笑ったが、暁登は不服そうでもあった。その時、暁登のスマートフォンが震えた。実は先ほどから気になるほど、暁登のスマートフォンはひっきりなしになにかを告げていたのだが、暁登は知らんぷりだった。しつこく鳴動するこれが気になり、ついに「出なよ」と言ってやった。
「いや、電話じゃないです。多分、メール」
「だから確認しなって。急ぎの連絡かもだろ、」
「いまのおれに急ぎの用件がある人なんか、いないです」
と、暁登はスマートフォンを取り出そうともしない。樹生はハンドルに腕を置き、そのまま顎を乗せる。「あー、そう」
だが、暁登の言葉に反して、スマートフォンはバイブレーション機能を発揮させる。静かな車内に響くので、樹生が焦れて「だから確認しなって」と言った。
「それとも確認したくない用件? 借金取りからとか」
「……」
「え、借金してんの?」
「してません」
と、暁登はきっぱりと否定したが、樹生の言った「確認したくない用件」であるのだろう。そこまで考えて、樹生は「あ」と勘づく。「もしかして、昨日のアレ?」
暁登は瞬時に表情を変え、わかりやすくうつむく。嘘のつけない性格は好ましいが、この青年のこの先のことを考えると嘘ぐらいはつけた方がいい。なんだかやるせなくなった。
「それ、メール? LINEとかじゃない?」
と尋ねると、暁登は小さく頷いた。
「――パソコンのフリーメールです。登録用に取得したやつで、スマホにアプリ入れてあって。それがうるさいだけです」
「そのアドレス宛に頻繁にメールが届く?」
「……そう、ですね」
「見てもいい?」
と訊いたが、さすがに頷くわけがないと思った。しかし樹生の思惑に反して、暁登は少しの間を置いてから頷いた。スマートフォンをようやく取り出すと、とんとんと指で操作して、画面を差し出す。「どうぞ」
どうぞと差し出されてもな、と思ったが、見てもよいかと尋ねたのは自分である。メールの中を見ると、下品なタイトルのメールばかりだった。どういうところに登録したのかまでは不明だが、おそらくその時点でアドレスを基本とした暁登の情報は抜かれているのだろう。セックス、セックス、セックス、金金金、セックス。おおむねそんな内容だった。こんなのを受信すること自体が無意味だ。
「とりあえずこのメールのアプリ、消すよ」
「え」
「アンインストールするだけ。やかましいだろ」
暁登はなにも言わなかった。「それとも困ることがある?」と訊くと、諦めたように首を横に振った。樹生は暁登のスマートフォンを操作して、即座にアプリケーションを消した。
「なあ」気になっていたことを訊くことにした。「どういうところに登録したの?」
「……よく、わかんないです。登録っていうか、掲示板みたいなところに書き込んだ感じで」
「それ、まだ消してない?」
「……はい、」
「おれも見ていいかな」
「――嫌です」
これにははっきりと否定する。
「なんで? メールはよくて書き込みは駄目?」
「駄目なんじゃなくて、嫌なんです」
「……だったら、おれが塩谷くんの気持ちを無視しても、見るのはいい、ってこと?」
そう言うと、暁登は「岩永さんはおれが嫌なことをしません」と答えた。
「わかんないよ、人なんて」
「岩永さんは、しません」
「……あのさ、そういう信頼? とか、さっきの尊敬とか、いったいどこから来てるんだ?」
樹生はややうんざりしながら尋ねる。自分はそんなたいした人間ではないと思うからだ。卑下するつもりは全くないし、自分に自信がないわけでもない。ただ、事実。暁登が自分のことを飾って見ているのだとしたら、それはやめてほしかった。
暁登はうつむいていたが、顔をあげた。樹生の目を真正面から捉えて来る。黒縁の眼鏡の奥の瞳はなんだかわけの分からないものに燃えていて、迫力に樹生は思わず圧倒される。先ほどまで冷めたような、諦めたような態度だった人がいきなりこのような目をする――それは震えるほどに、強かった。
「おれは岩永さんを、心から尊敬しています」
樹生の問いの答えにはなっていなかった。けれど樹生は「そうか」と頷き、車を発進させて来た道を戻った。
→ 20
← 18
「少し、話してもいいですか?」
「いいよ」
「おれ、本当は大学に行きたかったんです。大学行って、国際系の仕事に就きたかった。だから高校は進学校を選んで」
と、暁登はこの辺ではかなり偏差値の高い有名校の名を挙げた。その高校は英語教育に力を入れていて、留学制度を熱心に取り入れている学校でもあった。
「でも、なんか学校生活がうまくいかなくて。……勉強は好きでしたけど、こう、クラスメイトと仲良くするとか、委員会や部活動に力を入れるとか、そういうのがあんまりで。そうやってたら、クラスから浮いて」
「うん」
「別にいいかな、とは思ったんです。学校は勉強するところだから、勉強さえできていれば、って。でも、周囲の環境に一向に馴れないことにだんだんストレスを感じるようになって、……だめになってきて。あんまり食べる気がしないとか、眠れないとか、学校へ行くのに足がこわばったり、クラス内の音が増幅されて、まるで騒音聞いてるみたいに苦痛に感じたり、……そういうのが毎日続いて。学校に通えなくなりました」
「……でも、卒業はしたんでしょ?」
「かろうじて。でも成績なんか本当に底辺でしたし、日数もぎりぎりで、……高校卒業のころは、もう、ほとんど引きこもり状態。大学受験なんかできるわけなくて、」
それを聞いて、樹生はなんとなく理解したように思った。暁登が高校卒業後すぐに就職せず、秋に中途採用で雇用された理由だ。
暁登も「卒業して半年ぐらいは引きこもってました」と言ったので、確信に変わった。
「じゃあ、局に入ったのが本当に初めての就職だったのか」
「そうです。このまんまじゃだめだってずーっと思い続けてて、でもどうしていいのか分からないし、家を出る気力も金もない。そしたらちょうどポストに配達員募集のチラシが入ってて。家からいちばん近いところの集配局だったから、とりあえず実家から通えるならいいんじゃないか、って両親にも言われて。だから応募しました」
それで暁登と樹生が出会うことになる。「岩永さんに丁寧に仕事教えてもらったから、なんとか続いてたんですけど」と暁登は続けた。
「……岩永さんいなくなって、代わりに転勤してきた正社員の人の当たりがきつくて。リーダーともどんどん噛み合わなくなって、苛々するし、朝起きて心臓が痛かったり、ずっと緊張してたりで、……だから結局、続けられませんでした」
「……仕方がないんじゃないかな」
「でも、また結局は引きこもりに後戻りですよ」
「いま、なんにもしてない?」
「……朝早く起きて、ちょっとだけ新聞配達の仕事をしています。これは親戚が新聞店をやっているので、そのコネみたいな。小遣い稼ぎ程度です」
「なんだ、してんじゃん」
樹生は暁登の背中をポンポンと叩いた。
「高校出て、バイトして。充分なんじゃない?」
「でも、」
「おれなんか中卒だから」
と言うと、暁登はさすがに意外だったらしい。「え」と台詞には驚きの色が滲んだ。
「……四大とか、普通に出てたんだと思ってました」
「いや、中卒。でも中学もほぼ行ってない。小学校の中学年ぐらいから学校とかそういうの、無縁」
「……なんで、ですか?」
「んー、アトピーがひどかったせいかな。生活に支障が出るほどじゃなかったけど、肌のことで笑われた。それが嫌でさ」
と樹生は笑って見せた。これは本当のことで、嘘は言っていない。学校へ行かなかった理由は、アトピーで常に肌が荒れていたのをクラスメイトに「汚い」と言われからかわれたことで、こんなやつらと同じ空間にいて仲良くしてかなきゃならないのを面倒くさいと思い、時間の無駄だと思った。周囲はほかに理由を見つけたがったが、樹生の中では単にそれだけだった。
「だから高校まで行って卒業したっていう塩谷くんは偉いよ。おれなんか大学に行こうっていう夢? 将来の目標? そういうのすら全くなかった。ないままなんとなくいまの職に就いてやってんだからさ」
「自分のことを偉いとか、思わないです」
「思っときなって。立派だよ、おれよりはるかに」
暁登はそこで黙った。風が次第に強く吹き始め、寒さを感じていた。「車に戻るか」と言うと、暁登も頷いて弁当のごみを片付け始めた。
→ 19
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「いいよ」
「おれ、本当は大学に行きたかったんです。大学行って、国際系の仕事に就きたかった。だから高校は進学校を選んで」
と、暁登はこの辺ではかなり偏差値の高い有名校の名を挙げた。その高校は英語教育に力を入れていて、留学制度を熱心に取り入れている学校でもあった。
「でも、なんか学校生活がうまくいかなくて。……勉強は好きでしたけど、こう、クラスメイトと仲良くするとか、委員会や部活動に力を入れるとか、そういうのがあんまりで。そうやってたら、クラスから浮いて」
「うん」
「別にいいかな、とは思ったんです。学校は勉強するところだから、勉強さえできていれば、って。でも、周囲の環境に一向に馴れないことにだんだんストレスを感じるようになって、……だめになってきて。あんまり食べる気がしないとか、眠れないとか、学校へ行くのに足がこわばったり、クラス内の音が増幅されて、まるで騒音聞いてるみたいに苦痛に感じたり、……そういうのが毎日続いて。学校に通えなくなりました」
「……でも、卒業はしたんでしょ?」
「かろうじて。でも成績なんか本当に底辺でしたし、日数もぎりぎりで、……高校卒業のころは、もう、ほとんど引きこもり状態。大学受験なんかできるわけなくて、」
それを聞いて、樹生はなんとなく理解したように思った。暁登が高校卒業後すぐに就職せず、秋に中途採用で雇用された理由だ。
暁登も「卒業して半年ぐらいは引きこもってました」と言ったので、確信に変わった。
「じゃあ、局に入ったのが本当に初めての就職だったのか」
「そうです。このまんまじゃだめだってずーっと思い続けてて、でもどうしていいのか分からないし、家を出る気力も金もない。そしたらちょうどポストに配達員募集のチラシが入ってて。家からいちばん近いところの集配局だったから、とりあえず実家から通えるならいいんじゃないか、って両親にも言われて。だから応募しました」
それで暁登と樹生が出会うことになる。「岩永さんに丁寧に仕事教えてもらったから、なんとか続いてたんですけど」と暁登は続けた。
「……岩永さんいなくなって、代わりに転勤してきた正社員の人の当たりがきつくて。リーダーともどんどん噛み合わなくなって、苛々するし、朝起きて心臓が痛かったり、ずっと緊張してたりで、……だから結局、続けられませんでした」
「……仕方がないんじゃないかな」
「でも、また結局は引きこもりに後戻りですよ」
「いま、なんにもしてない?」
「……朝早く起きて、ちょっとだけ新聞配達の仕事をしています。これは親戚が新聞店をやっているので、そのコネみたいな。小遣い稼ぎ程度です」
「なんだ、してんじゃん」
樹生は暁登の背中をポンポンと叩いた。
「高校出て、バイトして。充分なんじゃない?」
「でも、」
「おれなんか中卒だから」
と言うと、暁登はさすがに意外だったらしい。「え」と台詞には驚きの色が滲んだ。
「……四大とか、普通に出てたんだと思ってました」
「いや、中卒。でも中学もほぼ行ってない。小学校の中学年ぐらいから学校とかそういうの、無縁」
「……なんで、ですか?」
「んー、アトピーがひどかったせいかな。生活に支障が出るほどじゃなかったけど、肌のことで笑われた。それが嫌でさ」
と樹生は笑って見せた。これは本当のことで、嘘は言っていない。学校へ行かなかった理由は、アトピーで常に肌が荒れていたのをクラスメイトに「汚い」と言われからかわれたことで、こんなやつらと同じ空間にいて仲良くしてかなきゃならないのを面倒くさいと思い、時間の無駄だと思った。周囲はほかに理由を見つけたがったが、樹生の中では単にそれだけだった。
「だから高校まで行って卒業したっていう塩谷くんは偉いよ。おれなんか大学に行こうっていう夢? 将来の目標? そういうのすら全くなかった。ないままなんとなくいまの職に就いてやってんだからさ」
「自分のことを偉いとか、思わないです」
「思っときなって。立派だよ、おれよりはるかに」
暁登はそこで黙った。風が次第に強く吹き始め、寒さを感じていた。「車に戻るか」と言うと、暁登も頷いて弁当のごみを片付け始めた。
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「岩永さんは煙草っていつ覚えました?」
火を点けて一息吐いたところで暁登はそう訊いた。
「んー、十七とか、八とか、その辺だったかな」
「じゃあ、未成年ですね」
「そうだね。でもみんな黙ってるだけで割とそんなもんじゃないかな」
煙草を吸いながら樹生は答える。暁登はしばらくその姿をぼんやりと眺めていたが、やがて口を開く。「おれももう、煙草吸えます」
「――え? 塩谷くん、煙草吸うようになったの?」
「あ、年齢の話です。六月に二十歳になったんで。飲酒も煙草も解禁です」
「あー、成人したっていう意味か。おめでとう」
樹生は指で挟んでいた煙草の吸い口をたわむれに暁登へと差し出し、「吸う?」と言った。もちろん冗談のつもりだったのだが、暁登は煙ののぼるそれをしばらく見つめていた。真剣で、あまりにまっすぐで強い色を放つ瞳に吸い込まれそうで怖かった。
「冗談、冗談。塩谷くんが煙草吸ったり酒飲んだりするのはさ、正直おれにはあんまりイメージ湧かないわ。実際、飲んだり吸ったりしてんの?」
「いえ、……飲酒は、成人したときに父親にもらって、してみました。けど、ビールの味の良さがよく分からなくて、それきり。それに多分、アルコールに弱いんだと思います。貧血も起こしちゃって、」
「あらら」
「すごく気持ち悪くなって、目の前が暗くなって、耳鳴りがひどくて。しばらくトイレから出られなかったんですよ。それが初飲酒の思い出」
「あー、そりゃ飲まない方がいいね」
樹生は携帯灰皿に煙草の灰を落とし、また吸う。
「でも、飲めたり吸えたりした方がストレスをうまく逃がせるなら、そうした方がいい気がしてます」
と暁登は真顔で言う。それこそ真面目な意見で、樹生のように「なんとなく興味を持って吸い始めてやめられなくなった」とは根本的に違う。飲酒や喫煙をそんな風に考えたことがなかった。樹生は「やめときな」と暁登に言う。
「百害あって一利なし、っていうでしょ。体にいいわけないし、金だってなんだかんだで地味にかかるしね」
「でも岩永さんは煙草も吸うしお酒も飲みますよね。昨夜も飲んだんでしょう?」
「おれはおれで、塩谷くんは塩谷くんだ。まあ、……おれが言っても説得力はないよな。塩谷くんが飲むなら飲む、吸うなら吸うで、止められない。自由だ」
「じゃあ、教えてください」
「おれが? なにを?」
「煙草の吸い方」
あんまりにも思い詰めて言われたので、樹生は吹き出した。
「やだよ。教えない」
「どうしてですか」
「塩谷くんには教えたくない」
と言ったが、手はポケットの煙草の箱をまた探っていた。それを暁登に渡す。
「ほら」
「……言っていることとやることが、違いませんか」
「そうだね」
暁登は渡された煙草の箱をしばらく眺めていたが、やがて「火、ありますか」と訊いてきた。
「チャレンジ?」
「はい」
ほら、とライターも渡す。暁登は不慣れな手つきで煙草の箱を開けるも、「入ってない」と言った。
「岩永さん、空です」
「あれ? そうだっけ?」
暁登に返された煙草の箱を見ると、確かに一本たりとも入ってはいなかった。
「そっか、これが最後か」といま手にしている煙草を見て言った。ゴミ箱がなかったので空になった箱を後で捨てようと思い、ポケットに入れた、そのことをいまさっきのことだったのに、忘れていた。
「じゃあやっぱりこれ吸う?」
と随分と短くなった煙草を差し出すと、暁登はそれを親指と人差し指でつまんで受け取った。そのまま唇に近づける姿は、煙草を吸うにしてはちょっと貧乏じみていた。
「そうじゃなくて。人差し指と中指で挟むんだよ」
こう、と暁登の手を取って教えてやる。暁登は手にした煙草の吸い口を唇に寄せて、こわごわ吸った。吸って、案の定むせた。
ごほごほと咳き込みながら「やっぱいいです」と樹生に煙草を寄越す。樹生はそれを吸いきって、携帯灰皿に押しつぶした。
「な、やめときなって」
「……でも、馴れかもしれないです」
「いや、塩谷くんは吸わない方がいいよ」
と、根拠もなく樹生は言った。暁登は不満そうな顔をしたが、ペットボトルの茶を飲むと、ふっと息を吐いた。
「軽蔑しましたか、おれのこと」と言う。
「なんで?」
「めちゃくちゃだから」
「ああ、昨夜のこと?」
「それもそうだし、……色々と、ぐっちゃぐちゃで」
消え入りそうな声で、暁登は言う。うなだれてから、それでも意を決したように顔をあげた。
→ 18
← 16
火を点けて一息吐いたところで暁登はそう訊いた。
「んー、十七とか、八とか、その辺だったかな」
「じゃあ、未成年ですね」
「そうだね。でもみんな黙ってるだけで割とそんなもんじゃないかな」
煙草を吸いながら樹生は答える。暁登はしばらくその姿をぼんやりと眺めていたが、やがて口を開く。「おれももう、煙草吸えます」
「――え? 塩谷くん、煙草吸うようになったの?」
「あ、年齢の話です。六月に二十歳になったんで。飲酒も煙草も解禁です」
「あー、成人したっていう意味か。おめでとう」
樹生は指で挟んでいた煙草の吸い口をたわむれに暁登へと差し出し、「吸う?」と言った。もちろん冗談のつもりだったのだが、暁登は煙ののぼるそれをしばらく見つめていた。真剣で、あまりにまっすぐで強い色を放つ瞳に吸い込まれそうで怖かった。
「冗談、冗談。塩谷くんが煙草吸ったり酒飲んだりするのはさ、正直おれにはあんまりイメージ湧かないわ。実際、飲んだり吸ったりしてんの?」
「いえ、……飲酒は、成人したときに父親にもらって、してみました。けど、ビールの味の良さがよく分からなくて、それきり。それに多分、アルコールに弱いんだと思います。貧血も起こしちゃって、」
「あらら」
「すごく気持ち悪くなって、目の前が暗くなって、耳鳴りがひどくて。しばらくトイレから出られなかったんですよ。それが初飲酒の思い出」
「あー、そりゃ飲まない方がいいね」
樹生は携帯灰皿に煙草の灰を落とし、また吸う。
「でも、飲めたり吸えたりした方がストレスをうまく逃がせるなら、そうした方がいい気がしてます」
と暁登は真顔で言う。それこそ真面目な意見で、樹生のように「なんとなく興味を持って吸い始めてやめられなくなった」とは根本的に違う。飲酒や喫煙をそんな風に考えたことがなかった。樹生は「やめときな」と暁登に言う。
「百害あって一利なし、っていうでしょ。体にいいわけないし、金だってなんだかんだで地味にかかるしね」
「でも岩永さんは煙草も吸うしお酒も飲みますよね。昨夜も飲んだんでしょう?」
「おれはおれで、塩谷くんは塩谷くんだ。まあ、……おれが言っても説得力はないよな。塩谷くんが飲むなら飲む、吸うなら吸うで、止められない。自由だ」
「じゃあ、教えてください」
「おれが? なにを?」
「煙草の吸い方」
あんまりにも思い詰めて言われたので、樹生は吹き出した。
「やだよ。教えない」
「どうしてですか」
「塩谷くんには教えたくない」
と言ったが、手はポケットの煙草の箱をまた探っていた。それを暁登に渡す。
「ほら」
「……言っていることとやることが、違いませんか」
「そうだね」
暁登は渡された煙草の箱をしばらく眺めていたが、やがて「火、ありますか」と訊いてきた。
「チャレンジ?」
「はい」
ほら、とライターも渡す。暁登は不慣れな手つきで煙草の箱を開けるも、「入ってない」と言った。
「岩永さん、空です」
「あれ? そうだっけ?」
暁登に返された煙草の箱を見ると、確かに一本たりとも入ってはいなかった。
「そっか、これが最後か」といま手にしている煙草を見て言った。ゴミ箱がなかったので空になった箱を後で捨てようと思い、ポケットに入れた、そのことをいまさっきのことだったのに、忘れていた。
「じゃあやっぱりこれ吸う?」
と随分と短くなった煙草を差し出すと、暁登はそれを親指と人差し指でつまんで受け取った。そのまま唇に近づける姿は、煙草を吸うにしてはちょっと貧乏じみていた。
「そうじゃなくて。人差し指と中指で挟むんだよ」
こう、と暁登の手を取って教えてやる。暁登は手にした煙草の吸い口を唇に寄せて、こわごわ吸った。吸って、案の定むせた。
ごほごほと咳き込みながら「やっぱいいです」と樹生に煙草を寄越す。樹生はそれを吸いきって、携帯灰皿に押しつぶした。
「な、やめときなって」
「……でも、馴れかもしれないです」
「いや、塩谷くんは吸わない方がいいよ」
と、根拠もなく樹生は言った。暁登は不満そうな顔をしたが、ペットボトルの茶を飲むと、ふっと息を吐いた。
「軽蔑しましたか、おれのこと」と言う。
「なんで?」
「めちゃくちゃだから」
「ああ、昨夜のこと?」
「それもそうだし、……色々と、ぐっちゃぐちゃで」
消え入りそうな声で、暁登は言う。うなだれてから、それでも意を決したように顔をあげた。
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「未遂でよかったよ、ほんと」
と、樹生はあの時のことを思い出してしみじみと言った。買春なんて、ばかなことを考えたものだと思う。けれど当時の暁登の状況のことを考えるとあまり笑えもしない。精神的な脆さから、暁登は配達員の職を辞めた。元々、その集配局のリーダーとはあまり合わず、樹生が間にいてこそ続いていた職だったと後になって聞いた。辞めてからはまともな職にありつけず、アルバイトに挑んでは短期で辞めることを繰り返していた。実家暮らしですねかじりの身であることが辛く、その辛さはストレスを悪化させる。「金が欲しかった」の台詞は、切実なものだった。暮らしてゆくには、金が要る。
と、樹生はあの時のことを思い出してしみじみと言った。買春なんて、ばかなことを考えたものだと思う。けれど当時の暁登の状況のことを考えるとあまり笑えもしない。精神的な脆さから、暁登は配達員の職を辞めた。元々、その集配局のリーダーとはあまり合わず、樹生が間にいてこそ続いていた職だったと後になって聞いた。辞めてからはまともな職にありつけず、アルバイトに挑んでは短期で辞めることを繰り返していた。実家暮らしですねかじりの身であることが辛く、その辛さはストレスを悪化させる。「金が欲しかった」の台詞は、切実なものだった。暮らしてゆくには、金が要る。
再会の翌日の昼にはもう顔を合わせていた。前の職場の飲み会の際、暁登は未成年であることを理由にいつも運転手をさせられていて、だからか樹生の中で暁登を夜の繁華街に誘い出すイメージが全くなかったのだ。実際には暁登はその夏のはじめに二十歳を迎えていたのだが、そこまで考えが及んでいなかった。
それに樹生自身が、暁登を昼間の明るさの前に引きずり出して、安心したい気持ちもあった。それほど昨夜の暁登の姿は不安定で、痛々しかった。
指定した待ち合わせ場所は樹生のアパートの最寄り駅で、暁登は公共交通機関を利用してやって来た。樹生の後輩だった頃の暁登は職場まで自家用車で通勤していたから、車はどうしたのかと聞けば、あまり使っていないという。
「少し前に父親の車が車検だったんですけど、もうかなり古かったから車検には通さずに廃車にしたんです。おれの車はいま、主に父親が使っています。あまり……おれには、必要のないものになってしまったので」
「……バイト先とか、どうしてるの、」
「昔乗ってた原付引っ張り出して使ってます。それで充分ですから。今日も実家から駅までは原付で来ました。で、駐輪場に駐めといて、電車でここまで」
「そっか」
暁登を助手席に乗せ、車を発車させた。郊外へと向かい、昼飯の予定をちょっとしたドライブに変更した。店内よりも車内の方が暁登の話をちゃんと聞き出せる気がした。
昨夜の雨が嘘のように晴れて気持ちのよい日だった。洗われた青空がたまらなく綺麗で、より空に近い道を行った。高原の有料道路を走る。
途中で適当に弁当と飲料を買い、道をひたすらに走る。まもなくやって来る冬、この道は閉鎖される。雪の深い地域であるためだ。
車内で暁登は黙り通した。黙ったまま、有料道路のほぼ頂上付近にある見晴らしのよい公園に立ち寄り、外へ出てベンチで弁当を食べた。腹を満たしペットボトルのお茶で一息つき、樹生は暁登に言葉をかけた。
「少しは気分転換になった?」
「……」
「風が乾いてて気持ちいいな。ま、ちょっと寒いか」
すると暁登は小さな声で「はい」と答えた。「寒い」に賛同したのだと思い、「戻る?」と駐車場の方を指差すと、暁登は「いえ」と言う。
「昨夜は、すみませんでした」
頭を下げられた。
「……謝られるようなことはなんにもないよ」
「久しぶりに会って、最低なところ見せて、おまけに今日も甘えました。岩永さんにも研修会の疲れとか休日の予定とか色々ありますよね。なのに誘ってくれて、ご迷惑をおかけしている、から」
もう一度、暁登は頭を下げた。樹生は無意識にポケットの煙草を探っていた。指がコツンと煙草の箱の角を捉えて、自分が喫煙したいのだと認識する。「吸っていい?」と訊ねると暁登は頷いた。
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← 15
それに樹生自身が、暁登を昼間の明るさの前に引きずり出して、安心したい気持ちもあった。それほど昨夜の暁登の姿は不安定で、痛々しかった。
指定した待ち合わせ場所は樹生のアパートの最寄り駅で、暁登は公共交通機関を利用してやって来た。樹生の後輩だった頃の暁登は職場まで自家用車で通勤していたから、車はどうしたのかと聞けば、あまり使っていないという。
「少し前に父親の車が車検だったんですけど、もうかなり古かったから車検には通さずに廃車にしたんです。おれの車はいま、主に父親が使っています。あまり……おれには、必要のないものになってしまったので」
「……バイト先とか、どうしてるの、」
「昔乗ってた原付引っ張り出して使ってます。それで充分ですから。今日も実家から駅までは原付で来ました。で、駐輪場に駐めといて、電車でここまで」
「そっか」
暁登を助手席に乗せ、車を発車させた。郊外へと向かい、昼飯の予定をちょっとしたドライブに変更した。店内よりも車内の方が暁登の話をちゃんと聞き出せる気がした。
昨夜の雨が嘘のように晴れて気持ちのよい日だった。洗われた青空がたまらなく綺麗で、より空に近い道を行った。高原の有料道路を走る。
途中で適当に弁当と飲料を買い、道をひたすらに走る。まもなくやって来る冬、この道は閉鎖される。雪の深い地域であるためだ。
車内で暁登は黙り通した。黙ったまま、有料道路のほぼ頂上付近にある見晴らしのよい公園に立ち寄り、外へ出てベンチで弁当を食べた。腹を満たしペットボトルのお茶で一息つき、樹生は暁登に言葉をかけた。
「少しは気分転換になった?」
「……」
「風が乾いてて気持ちいいな。ま、ちょっと寒いか」
すると暁登は小さな声で「はい」と答えた。「寒い」に賛同したのだと思い、「戻る?」と駐車場の方を指差すと、暁登は「いえ」と言う。
「昨夜は、すみませんでした」
頭を下げられた。
「……謝られるようなことはなんにもないよ」
「久しぶりに会って、最低なところ見せて、おまけに今日も甘えました。岩永さんにも研修会の疲れとか休日の予定とか色々ありますよね。なのに誘ってくれて、ご迷惑をおかけしている、から」
もう一度、暁登は頭を下げた。樹生は無意識にポケットの煙草を探っていた。指がコツンと煙草の箱の角を捉えて、自分が喫煙したいのだと認識する。「吸っていい?」と訊ねると暁登は頷いた。
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プロフィール
HN:
粟津原栗子
性別:
非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。
****
2022*08*11-21
暑いですね。番外編短編、ちょこっと更新しています。
2021*12*04-2022*03*17
お久しぶりです。短編長編更新。
短編「さきごろのはる」
短編「月の椅子」
短編「みんな嬉しいお菓子の日」
長編「ファンタスティック・ブロウ」
短編「冬の日、林檎真っ赤に熟れて」
2021*08*16-08*19
甘いお菓子のある短編「最善最愛チョコレート」更新。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。
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