忍者ブログ
ADMIN]  [WRITE
成人女性を対象とした自作小説を置いています。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

四.ジャンダルム


 郵便配達員ではあるが、年賀状を出す習慣は樹生にはない。これが所帯を持っていたりすれば別の話であったかもしれないがまあ、いま現代を生きる三十代独身男性としてはそこそこ正しい姿ではあると言える。樹生の知人友人同僚の中で同じ境遇の人間は、新年の挨拶状などまず出さない。
 それでも、何年か前に正社員に採用されてからは多少意識が変わった。自分の社会的な地位を見て、これからのことも考えて、まるきり出さないわけにもいかないな、と思ったのだ。だからひとまず前の職場の上司や、仲良くしている他局の同僚、年賀状やカタログギフトを購入してくれた顧客でとりわけ親しい人などには出している。あくまでも社会的な付き合いの中の話で、出す枚数は十枚にも満たない。
 直属の上司や、同僚たちには出さない。どうせ年末年始は嫌と言うほど顔を合わせる。よいお年を、と言ったその数時間後にはあけましておめでとうなどと言って出勤する。見せたい妻や子の存在があるわけでもないし、年の瀬、新年というものに特にありがたみを感じない。
 早たちの年代であると、年賀状は特別な意味を持つものらしい。日ごろ不義理を働いている人や、体の不具合などで遠くなってしまった人たちに、私は元気です、あなたはどうですか、というお伺いを立てるのに最適なのだといつか早が言っていた。
『やっぱり、惣先生が亡くなった年の喪中欠礼はがきを出すのが、嫌でした』
 これは二か月ほど前に早の元を一人で訪れた際に、早が言っていた言葉だ。
『とりわけ惣先生にはたくさんの知り合いがいて、たくさんの教え子がいて、年賀状を出す枚数も半端なかったですから。ただでさえ惣先生が亡くなったことでとても疲れていたのに、何百枚と出さなければ、と思ったら、苦痛で』
『近頃はどうですか?』
『楽になりましたよ。年賀状の柄は何にしようか、と考えたり。出す枚数もずいぶんと減りましたからね』
 そう言いながらも、早は樹生から二百枚ほど年賀状を買った。確かに以前よりは格段に減ったが、それでも個人宅でこの枚数ははっきり言って大口顧客だ。まだ亡くなった夫絡みの付き合いで出す年賀状があり、また早自身にもかつての同僚や教え子に出す年始の挨拶状がある。早自身は美術科の教員だったのだから、年賀状作りは腕の振るいどころにもなるのだろう。
 今年の樹生の年末年始は、クリスマス当日からの十二連勤で始まった。
 毎年、十一月ぐらいに早めの冬期休暇を取らされ、徐々に年賀状を売り出しながら配達をこなし、この時期一気に、爆発する勢いで繁忙期を迎える。毎日の残業は当たり前で、皆で半ば殺気立ちながらも年賀状を仕分ける。冬休みを利用した学生のアルバイトもやって来る。それでも昔よりは年賀状の仕分けは楽になったと古株の社員は言うし、樹生でさえそう思う。郵便区分機の精度が上がって正確に住所を分けられるようになったり、年賀状の差出数自体が減ったり。要因は様々だ。
 元旦の年賀状配達を終えて帰宅すると、暁登が珍しく自室ではなくリビングで部屋を暖めて待っていた。「お帰り」と右手を挙げてひらひら振る。その手にはこれまで散々見ていて、明日以降もしばらく見ることになる、白地に赤い印刷のされた紙があった。
「年賀状、誰から?」と暁登に訊ねる。暁登も年賀状を出す習慣などないので、この家に年賀状が届くことが珍しい。せいぜい樹生の職場絡みか、その程度だ。
 暁登は「早先生から」と答えた。しょっちゅう会いに行くのに、早は毎年こうして丁寧に年賀状を寄越す。暁登と樹生、それぞれに。
「こっちあんたの分」
「見せて」
 上着を脱ぎながら暁登からはがきを受け取る。早らしいたおやかな字で樹生の名前が表面には書かれていて、裏を見るとそこには淡彩で山の稜線が描かれていた。
 暁登も樹生の手元を覗き込む。暁登の手元にも早からの年賀状が握られていたが、絵柄は違うようだった。
「早先生って、年賀状の絵柄は毎年必ずニ種類用意するんだって」と暁登が言った。
「ご主人関係の人に出す分と、自分で出す分と、絵柄は分けるって言ってた」
「暁登の方は何?」
「おれのは干支」
 そう言って暁登が見せてくれたのは、確かに今年の干支が恭しく描かれた年賀状だった。
「あんたのは?」
「どっかの山、かな」
「あ、これH連峰じゃん」
 あっさり暁登は山の名を言い当てた。
「なんで分かんの?」
「登ったことがあるからだよ」
「どこにある山?」
「N県とG県のあいだ」
「そんなとこ行ってたの」
「うちの両親は山好きだったからさ、」
 山の稜線は、絵で見る限りだが岩場だった。「これ」と暁登は中心に描かれた黒い出っ張りを指差す。「これがあるからこの山だ、って分かる」
「ふうん。岩?」
「うん。ジャンダルム」
「ジャンダルム?」
「そう、ジャンダルム」
「何語?」
「えーと、フランス語だった気がする」
 樹生は意味が分からなくて、ぽかんとしてしまった。



→ 31

← 29



拍手[12回]

PR
 セックスみたいな腰の動かし方で、暁登の内腿から性器へと猛ったものを擦り付ける。次第に濡れた音が室内に響き始めた。暁登は顔を布団に押し付けて必死で耐えている。だが腰が揺れ始め、ついに自身の性器へと手が伸びた。樹生の動かし方では足りないとばかりに手を動かしている。
 その様にそそられた。樹生はしっかりと暁登の腰を掴むと、大きく腰をスライドさせた。もう、また、沸点に届く。そうしているうちに暁登が大きく震えて、三度目の精を吐く。
 続いて樹生も射精した。暁登の背中に出し、大きく息をつく。膝立ちで耽っていたせいで膝が痛かった。それでも枕元に手を伸ばし、ティッシュを取ると暁登の背中を拭った。
 暁登は布団に突っ伏している。それが心配になり、「塩谷くん」と声をかけた。
「……大丈夫?」
「……」
「塩谷くん」
「眼鏡、」と暁登は答えた。「眼鏡、ください」
「ああ、」
 樹生は立ち上がり、窓の桟に置いた眼鏡を暁登に渡す。暁登も起き上がり、それをかけた。かけてからじっと樹生に視線を向けて来るので、樹生はなんだかいたたまれない。
「塩谷くん、」
「ようやく見えます」
 そう言って、暁登は樹生の胸に手を当てる。
「岩永さんの体、見たいと思ってた」
「そっか」
「はい」
 樹生はその体を抱きしめる。眼鏡は肌に当たって痛かったので、また外した。そのまま布団に倒れ込む。シーツは体液で濡れていたが、替えなどなかったし、構いもしなかった。
 そのまま眠った。眠りに落ちる寸前に暁登がなにか言ったように聞こえたが内容までは聞き取れなかった。目覚めれば夜明けで、出勤時刻が迫っていて、暁登はもういなかった。


 その、樹生が起きる前に逃げた暁登といまこうして共に暮らし、同じ空間を共有しているのだから不思議なものだなと思う。ベッド下で本に夢中になっている後頭部を見つめ、パーカーのフードから覗く脊椎の浮き上がりを見つめ、樹生はフードを指でつまんで引っ張った。「ねえ」
「なに?」暁登が振り向く。
「今夜は一緒に寝よう」
 と言うと、暁登は眉根を寄せた。嫌でも駄目でもなく、困っている表情だ。
「風邪うつるから嫌だ」
「ずっとこの部屋にいてくれてたんだろ? うつるならうつってる。もう遅いよ」
「ベッド狭いし。あんたはでかいし」
「いいじゃん」
 普段ならこんな甘え方はしないな、と樹生は思う。熱で脳がやられている。
「心細いんだよ、一人寝が」
「……」
「あき、」
 すると暁登は立ち上がり、部屋から出て行った。しばらくして枕と毛布を抱えて樹生の元へ戻ってきた。どうやら樹生の懇願を聞いてくれるらしい。
 樹生は思わず笑ってしまった。それを見た暁登は、「とりあえずめし食うぞ、めし」と怒ったように言う。その世話焼きも嬉しくて笑っていたら、暁登もつられて少しだけ笑った。「ばか」と言われたが、幸福だと思う。


→ 30

← 28



拍手[9回]


 取り去ると痩せた体が全て晒された。太腿から脛など心配なぐらいに骨の浮き上がりが分かったので、樹生は苦笑しながら「塩谷くん、痩せた?」と尋ねる。
「前はもっと肉があったんじゃないかって思うんだけど」
「家に引きこもってばかりなので。局辞めたら、多分筋肉が落ちて」
「まあ、なんだかんだで体力勝負だからね、配達って」
「岩永さんは、鍛えてるんですよね」
「鍛えてるっていうか、」樹生は笑う。
「たまにバレーボールやってるとか、そんぐらい。市民体育館借りてサークルみたいなやつ」
「……おれも岩永さんの体、全部見たいです」
「……いいよ、」
 樹生も着ていた衣類を脱いだ。布団の脇にまとめて放り、改めて暁登に向き合うと、暁登の視線が樹生の体に注がれているのが分かった。見ようとしているのか、目をきつく細めている。
「見えないんだろ」と言ってやった。
「さっき岩永さんに眼鏡を取られてしまったので」
「だいぶ言うようになってきたね」
「触っていい?」
「どうぞ」
 暁登の腕がまた伸びた。胸や背中、脇腹、腿に脛、足首とあらゆる個所を彼なりの速度で触れてくる。それはくすぐったくて、樹生は笑う代わりにちいさく息を漏らした。
 懸命に撫でて来る手を掴みなおし、そのまま暁登の体を後ろへ押し倒した。
 樹生の下で、暁登がきついまなざしで樹生を見上げる。その瞳は透き通っていて、樹生の心臓はテンポを乱して跳ねる。
 額に張り付いた髪を掻きあげて、その目蓋に口づけた。顔じゅうに唇を押し付けながら掌で暁登の体をまさぐると、暁登は鼻に抜けた声を漏らす。
 樹生の唇から逃れるように顔を背け、暁登が息を吐いた。
「……岩永さん、おれが触りたいって」
「触ればいいよ。おれも触ってるだけ、」
 そう言いながらも手は愛撫をやめない。暁登の足を開かせ尻の奥へと指を進めると、そこは乾いていて、樹生は思わず「あ」と声を出した。樹生に組み敷かれているけれど、暁登は女ではない。女でないので、当然ながら支障があった。
 暁登が不思議そうな顔で樹生を見上げた。
「……なに、」
「いや、……コンドーム買うときにジェルかなんか買っときゃよかった、と思って」
 暁登はまだぽかんとしていたが、「ここ」と指で暁登の奥を押してやると、びくっと体を竦めた。
「本来の用途が違うからさ。濡れるわきゃない」
「……湿ってないとまずいんですか、」
「痛いんじゃないかな、」
 塩谷くんが、と付け加えると、暁登はまた眉根を寄せた。
「なんもないんだよな、おれんち。ラブホだったら」
 話す傍から暁登は樹生の腕から逃れ、「もういいです」と布団にうつぶせてしまった。
「塩谷くん?」
「もう、いいです。やめましょう」
「なに怒ってんの、」
「別に怒ってないです」
「いや怒ってるって」
「ない」
「ある」
 暁登はしばらく黙ったが、ややあってくぐもった声が返された。
「腹が立ちました」
 やっぱり怒ってんじゃないかと思ったが、それを言えばきっともっと意固地になりそうだと想像がついたので、言うのはやめた。「なにに腹が立った?」
「岩永さんに」
「なんで」
「慣れてるから」
「なにに」
「セックス」
 暁登は布団に押し付けた顔を上げない。その後頭部に樹生は手を伸ばして触れる。
「そりゃまあ、そうだよ。おれはきみより八年先に生きてるからね」
「……そうだけど」
「八年ってすごい差だよ。おれが二十歳のころ、きみはまだ小学生とかだろ? もう少し早くこうなってたら、淫行で捕まってるよ、おれは」
「……」
 うつぶせた暁登の腰を樹生は掴む。暁登は特に抵抗しなかったが、だからと言って応じる気もないようだった。されるがままになっている体の、臀部の上部のわずかな窪みに樹生は自身の猛った雄を押し付けた。
 さすがに暁登はそれに驚いたのか、体に力が入った。
「――塩谷くん」
「……」
「おれは、したい」
 樹生は腰を揺らしてそれを暁登の肌の上で擦った。
「やめたくない」
 性器を少しずつ下へとずらす。暁登の腿と腿の隙間へそれを滑り込ませると、暁登の性器に当たった。そこもちゃんと硬かった。
 暁登の腰を持ちあげ、膝で立たせ尻だけ高くさせる。腿の間に差し込んだ性器をゆっくり前後させると、暁登も吐息を荒くさせた。


→ 29

← 27



拍手[8回]

「そんなことこんな最中に考えてたのか、この頭は」
 互いの精で濡れた手をシーツの端で雑に拭い、両手で暁登の頬を包み込んだ。目を見合わせる。
「おれはそんなこと考える余地ないぐらい夢中だったんだけどな。塩谷暁登くんはそうじゃなかった、ってこと」
「あ、いや……」
「ねえ、なんでおれとこんなことしてるのに、この先ひとり、だなんて言うの?」
「……」
「おれはきみを金で買ったわけじゃなくて、きみもおれに金を払うわけじゃない。それは衝動を持ち合わせたのが知りあい同士だったから好奇心で試してみた、ってことでもないと思ってる」
 樹生は顔を包んだ手を外し、背に手をまわして思いきり体を抱きしめた。
「なんでふたりでいるのに、おれのこと考えてくんないの、」
「……」
「おれの存在を無視しないでよ……」
 口からぽろっと出たのは思いのほか情けない台詞で、女々しいなと思ったが紛れもない本音だった。暁登は黙ってい抱かれていたが、おそるおそるという風に、樹生の背を先ほど樹生がしたようにやさしく撫でてくれた。
「……すみませんでした」と暁登が言う。
「おれは、結局は自分を守りたいんです」
「ん?」
「こんなに自分に対して嫌気がさすのに、結局は自分のことがかわいいから、防衛してしまう。いま、……最悪のことを想定しておかないと、いざその時が来たら、おれはきっと、やりきれなくなるって」
「なにが最悪なの、」
「……――岩永さんと離れること、」
 こんなに近くにいて、これ以上近くにいられないという距離にいて、そんなことを考えている。その心の距離の方がよっぽどの裏切りだと思ったが、樹生は口にしなかった。暁登の気持ちが分からないわけではなかった。
「この時間が終わって、服着て、この部屋を出て、帰る。……おれは泣いてしまうような気がします」
「すげー気持ちよくて、すげー幸せだったとか、そういう気持ちにはならない?」
「……淋しい」
 その台詞は、冷たい木枯らしそのもののような響きだった。
「淋しい?」
「はい」
「二度目もあるよ、っていう期待とか、ないの」
「二度目があるんですか」
 あるよ、とは即答したくて、ためらいがあり、出来なかった。樹生はあるものだと思っていたが、暁登はそうだと思っていない。この心の隔たりがある限り、おそらく今夜たった一度の体の関係だけで、終わる。樹生はそっちの方が淋しいと思った。
 だからと言って暁登の心にそっくり添うつもりもない。そんなのは無理だと分かっている。
 答えの代わりに、樹生は暁登の頬に口づけた。暁登の体がちいさく引き攣れる。そのまま指で背骨の筋を辿り降ろし、ズボンのウエスト、下着の中に手を入れて、暁登の背後、密やかに秘められた場所へと指を進める。そこを中指の腹で押すと、暁登は鼻から息を漏らし、同時に樹生の肩に爪を立てた。
 二度目があるのかどうかなんて、いまは考えていたくなかった。抱きあっている事実では駄目なのか。ふたりでまだ明けない夜を夢中になって過ごす、それではいけないのか。
「岩永さ、」
「……男同士ってさ、ここ使うって、……聞いただけの知識」
 知ってる? と尋ねると、暁登はややあって「見ました」と言う。
「え、やってるところを?」
「あの、ネットで見られる無料動画とかで、……。一応、なんにも知らないよりはと思って、下調べしたことが」
「あー、そう」
「でもあの、……おれに出来る気がしません」
 と言うので、樹生は「なんで?」と訊いた。
「あ、リードしてくれる人希望、だったもんな」
「それ、もうやめてください……」
「いやまあ、だからさ。おれは動画すら見たことないし、知識もほぼない。リード出来ないな、と思って」
「……」暁登は黙る。だが少しして、「岩永さんのリードとかそういうのは、もう、よくて、」と言う。
「おれの……ここに、岩永さんのが入るとは思えなくて、」
 それは樹生も思う。
「座薬とか、あるじゃないですか。小さいころ、熱出した時に親に突っ込まれたんですけど、……ああいうのですら違和感だらけなのに、」
「座薬、」樹生は悪いと思いながらも、笑ってしまう。
「いま、その、……岩永さんが触ってるのだけで、無理とか、思う」
 樹生はただ暁登の入り口に指を這わせているだけだ。それでもそこが硬く窄んでいるのが分かる。自分の、しかも標準より大きいとされるものが、その入り口を破って出し入れされる、それも無茶な気がした。
「まあね、おれも思うよ」
「でも、」
「でも、」
 と、台詞が重なる。二人で顔を見合わせて、そっちから、とか、先に言えよ、とか言い合って、少し笑う。
「じゃ、年長者から言うよ。それでも、試してみていいかな」
「……」
「いきなり突っ込むとか、そんなのはしない。無理だから。ちょっと、もうちょっと、きみに触ってたい。……駄目かな、」
「駄目、じゃない、……」
「嫌?」
「嫌でも、ないです。おれも、」
 そこで暁登は息をのんだ。喉ぼとけの上下する様が妙に色めいて映る。
「おれも、そう言おうと、思っていたので」
 暁登は恥ずかしそうにうつむいた。肌が触れているので、発熱が伝わる。
「だからあの、……駄目でも、嫌でも、なくて」
「よかった」
 樹生は息をつく。指を動かそうとして、暁登の衣類が邪魔であることに気付いた。樹生がそれを脱がそうとすると暁登は恥ずかしそうに身を捩ったが、されるがままで、樹生の手が動けば自ら腰を浮かせた。


→ 28

← 26



拍手[9回]

「――熱い」と暁登は言った。
「そうだな、」
「岩永さんの心臓、すごいです」
「めちゃくちゃ鳴ってるだろ、」
「……肌、がさがさ」
「酷いもんだよね」
 すると暁登は、先ほど樹生がしたように胸に顔を近づけ、そのまま頬を当ててきた。
 それきり動かないので、樹生はその頭を抱える。しばらくそうして、お互いの体温や心拍を確かめる。やがて暁登の手がするりと樹生の性器に伸びて、樹生は息を詰めた。
 ぎこちなく握られ、ぎこちなく擦られる。その不慣れな感じは悪くなかったが、沸点には足りない。樹生は暁登の手を上から握り、「こう」と言って自慰のリズムと強弱で暁登の手を動かした。
 濡れた音が室内に響き始める。樹生の吐息も荒くなる。手を外してももう、暁登は樹生の性器を気持ちよく刺激することが出来た。「気持ちいいですか」と訊かれたので、樹生は頷く。
「すげー気持ちいい。もう、だいぶ、やばい」
「……なんか、」
「ん?」
「おれも興奮してきました、また」
 見れば先ほど放出した暁登の性器も、立ちあがっていた。
「若いな」と笑うと、暁登は恥ずかしそうに目を背ける。
「いや、こういうのは意地が悪いよね。悪かった。……嬉しいよ」
「……」
「……一緒にしようか」
「え?」
 そう言って、いったん暁登の手を止めさせた。体制を直し、暁登の体をあぐらをかいた樹生の上に向かい合わせに載せる。勃起した性器と性器が触れあうさまを見て、思わず喉を鳴らしてしまった。
 暁登の手を導き、二人分の性器を二人でまとめて握った。
「重くないんですか、」と手を動かしながら、暁登が尋ねる。
「全然。むしろ軽くて怖い。もっと食って肉つけた方がいいよ、塩谷くん」
 樹生の膝の上で快感に悶え目尻を朱に染める暁登の姿は最高に艶っぽく、樹生はますます興奮した。そのうち暁登は自ら手を外してしまう。樹生の首にしっかりとしがみつき、裸の胸と胸が触れあって、心臓がドン、と跳ねた。
 二人分の性器を樹生は好きに扱いた。耳元で暁登は荒い吐息を漏らす。樹生も保たない。樹生が沸点を見て精を吐き出した時、暁登の性器はまだ硬いままだったが、残液を搾り取るように手を動かしていると彼もまた体を震わせて射精した。薄い精液を吐き出す。
 お互いの肩先にお互いの頭を乗せて、二人はしばらく放心した。
「……なんか、」先に口を開いたのは暁登だった。
「ん?」
「おれ、確かにセックスで金もらおうとしてましたけど、それはセックスがしたかったからじゃなくて、金が欲しかったからで、こういうことにあんまり興味はなかったんです」
「……」
 答える代わりに、樹生は暁登の背をぽんぽんと叩いた。
「たまるときはあるけど、……ひとりで処理できるからいいや、って」
「うん、」
「でも、岩永さんとするのと、ひとりでするのとじゃ、全然違ってて、」
「うん」
「体温が気持ちいいとか、手の大きさや力強さがたまらなかったりとか、触れている肌とか、髪のくすぐったさとか、そういうの全部ひっくるめて、知って、――なんでみんなセックスしたがるのかが、分かった」
「……うん」
「だから、おれ、は、……この先、どうしていいのか分からなくなって」
「……なんで?」
「自分以外の誰かの肌が恋しいってことは、……ものすごく暴力的な感情だなと思ったから、――あんまり知りたくなかった。もうこの先、ひとりきりじゃ無理だ……」
 その語尾が震えていたので、樹生は暁登のこめかみに唇を押し付けて、髪を撫でた。
 この青年はどうやって生きていくつもりだったのだろうか、と、樹生は思った。
 ひとりで完結できる人生などない。受精の段階ですでに自分でない男と女の存在があるのだ。母親の腹から出てもすぐにひとりで立てるわけではないから、誰かの手に抱かれる。抱かれた記憶をまた誰かに返したり、与えたりして、暮らしていく。
 たった二十歳かそこらで「ひとりきり」なんて言葉の出てくる暁登のことを、哀れに思い、淋しく思い、愛しく思う。樹生は頭の後ろに当てた手で、ぐしゃぐしゃと髪を掻きまわした。



→ 27

← 25



拍手[9回]

«前のページ]  [HOME]  [次のページ»
プロフィール
HN:
粟津原栗子
性別:
非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

****
2022*08*11-21
暑いですね。番外編短編、ちょこっと更新しています。

2021*12*04-2022*03*17
お久しぶりです。短編長編更新。
短編「さきごろのはる」
短編「月の椅子」
短編「みんな嬉しいお菓子の日」
長編「ファンタスティック・ブロウ」
短編「冬の日、林檎真っ赤に熟れて」

2021*08*16-08*19
甘いお菓子のある短編「最善最愛チョコレート」更新。
カウンター
カレンダー
04 2026/05 06
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
フリーエリア
最新コメント
最新記事
フリーエリア
ブログ内検索
忍者ブログ [PR]

Template by wolke4/Photo by 0501