ついたため息が真っ白だった。外灯の下だとそれがよく見えた。その白さに先ほどの青年を連想して、またため息をついた。
上原くんの前ではどうしたって卑屈になる。想いの強さに打ちのめされて、今夜は早々に寝たかった。冷たくなった身体を風呂に浸けて、すぐ横になりたい。何もかも忘れた朝がいい。
花びらみたいに舞う雪に遭難しかかりながらようやく部屋の扉へとたどり着くと、そこにでっかいのがうずくまっていた。思わず落とした鍵の音に顔をあげた大稀は、「おかえんなさい」と赤い頬のまま笑った。
「…いつからいたんだ?」
「引越しのついでにいるかなって来てみたけど、いなくて。えっと、30分待って来なかったらまた来ようと思ってた」
「ばか」
俺よりはるかに冷え込んだ人間に、そのまま帰れとも言えない。部屋に招き暖房を入れると、大稀はほうっと息をついた。
部屋は空いているから引越しはいつでもいいよなどと大家に言われ、大稀はいま自力で少しずつ荷物を新しい部屋に移している最中だ。3月から完全に入居できるようにするらしい。今日も自転車で運べる範囲を、荷台に積んでこまこまと運んでいたという。
慌ててお茶を沸かした。本当は人の世話が出来るほど今日の俺に余裕なんかないのだ。早く帰ってくれ、ひとりにしてくれと思うのに、それが大稀だと許してしまう。甘やかして、結局は甘えたいのだ、俺が。
それを見透かしたように、大稀が俺の名前を呼んだ。いつもの響きより、硬さがあった。
「秋津と別れた」
振り向くと、物怖じしない真っ黒な瞳が、こちらに向けられていた。
間抜けにも、「いつ」と訊いてしまった。大稀は息を吐きながら「昨日の夜」と答える。
「実はさっきまで、一緒に飲んでた」
「本当?」
「上原くん、そんなこと言わなかったけど――」
大稀が俺を見る目が怖くて、余計なことばかり喋っていた。いつの間にか大稀の身体が半歩分、俺に近づいていた。
手首を取られた。太陽のくせに、つめたい指をしていた。
「俺、あんたが好きだ」
そのまま長い腕が巻き付く。動けないまま、大稀の体温を知った。想像よりはるかに寒くて、鳥肌が立った。
朝が来て目覚めて、隣に人がいるというのは、どうも変な感じがする。
今までずっとひとりの世界だった。恋も愛も絵の前では圧倒的に力不足で、邪魔なだけだった。役立つことは何もない。
狭いシングルのベッドの上で、大稀は長い身体を上手に収めて、よく寝ていた。
たったそれだけだ。ずっと「さむいさむい」と言い、無駄に身体をくっつけてまとわりついていた。愛も囁かずキスもせずなんにもしない、一緒に寝ただけの夜。
でも確かに一晩中、力のこもった腕からは離されなかった。身じろいでもまた抱え直される。無意識でも満ち足りた吐息が頬をかすめる。
まだ眠っている大稀の横顔を俯瞰してみた。本当に彫刻のようだ。整った鼻筋が美しい。寝乱れた髪だって芸術的に見えてしまう。
しばらく眺めていた。魅入っていた。ようやく我に返って布団から抜け出そうとしたところを、大稀の手に阻まれた。
まだ半分、夢の中であるらしい。身体全体が白いシーツに溶けかかっていた。
「…あさ?」
「朝。俺、仕事だから行くけど」
逃れようとすると、尚更指に力が込められる。痛いよ、と言ったら大稀はゆっくりと起き上がり背中から俺を羽交い絞めにした。
「どうしよう、俺、しあわせだ」
首筋に熱い息が触れる。
ただ心臓が速くなるばかりで、しばらく黙ってされるままになっていた。
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…まだ続きます、よ。
鶯太郎くんののんびり新生活「おやすみなさい、また明日。」17時にのんびり更新中。
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20120404:樹海カップリング投票始めました。12時間置くと再び投票できます。10月5日までの半年間。コメント及び投票結果は今のところ私(管理人)しか見れません。遊んでやってくださいw
他、こここうしてほしいとかこれこうがいいとかご意見あればメールフォームよりお寄せください。よろしくお願いしますー
20120329:のんびりまったりやる気ない(そんなこともない)感じで新しいお話始めました。良ければー

