忍者ブログ
ADMIN]  [WRITE
成人女性を対象とした自作小説の物置です。
遊川貢

 


 待ち合わせ場所にいた大稀は、彫刻のようだった。ありったけの光をかき集めて彫塑した完璧な像。エネルギーの塊。春の強い光にも全く動じなかった。
 こちらに気付くと顔を上げ、笑って手をあげた。目だけでそれに応える。混雑した休日の駅前でも、よくまあこんな地味な親父を見つけてくれるもんだと思った。

 
「寒くない?」
「そうでもない。待ってたお前の方じゃないのか、それ」
「んー、とりあえず喫茶店かどっか、入っていい?」

 寒かったか、と訊くと、笑顔に情けなさをにじませて「やっぱまだ2月だ」と答えた。すぐに入った半地下のコーヒー屋はすでに人がいて暖かく、席に着くなり大稀はモーニングセットを頼んだ。

「で、今日はどういう予定?」
「電話で話した通りだよ。これを、見て回って、良さそうなら決めちゃう」

 バックパックの中から印刷したと思われるファイルを取り出す。これは大学生協のHPに載っているアパート情報を見て、大稀がいいと思ったものをいくつかピックアップしたものだそうだ。
 間取りを見るが、あまりいい部屋であるとは思えない。どれも破格の家賃で、「高田アパートに慣れてるともうどこでもいいんだよね」と大稀は言う。
 運ばれてきたモーニングとコーヒーをそれぞれの腹に収めつつ、あれこれと話をした。ここの内見は何時の約束で、こっちは何時など、すでにめぼしい部屋への約束は定めてあった。

「泰三さんは来ないの?」
「じいちゃんが来るわけないよ。勝手にやれ好きにしろ主義だから」
「まあ、あの人ならそうか」

 あっという間にプレートを空にすると、じゃあ行こう、と大稀は立ち上がった。



 結果から言えば、部屋は散々だった。高田アパートの方がはるかに都。ああいいかもしれないと思っても、「先ほど見えた方に決まってしまって」と残念な答えが返ってきた。こちらにもアパートを持ってるんですよと勧められても、大学から遠かったり、大稀の予算内に収まらなかったりで、決め手に欠けた。
 4件見終わって、結論は出なかった。意外にもぐったりした顔を見せているのは大稀の方だ。苦い顔のまま「お父さん、ね」と漏らした。

「え? 何が?」
「さっきの管理人さんに『お父様としても』なんとかって、言われてたじゃん、貢が」
「ああ、言われたけど。そりゃそうだろ、これだけ歳も離れてるのが一緒に歩いてたら、そんなもんだよ」
「親の顔なんかろくに見たことないのにさ。ばかみたいだ」

 そう言って地面の小石を蹴る。こんと跳ね上がって、ひとつふたつと弾んでから用水路に落ちた。

 詳しいことはよく知らないが、大稀の両親は彼が幼い頃に離婚している。親権は母親にあるそうだが、その母親は大稀を祖父に預けて遊びまわっているとか仕事しまくっているとか、そんな女性であるらしい。
 一度だけ目にしたことがある。大稀に会いに来たというよりは泰三さんに用があっただけのようで、薄い壁越しに聞こえるのはそっけない音声だけだった。
 あの日、大稀は俺の部屋で、じっと壁に耳を押し付けていた。泰三さんといればいいのにわざわざこちらの部屋に来て、俺の絵を見るみたいに、息をひそめて壁の向こうの音を聞いていた。母親が帰り際に「会ってくわ」と言って俺のところへ来たが、大稀はされるがままに撫でまわされただけで、以降母親とどうしているのかは、知らない。
 しっかりしたやんちゃな少年は、親の話になると不安定になった。今でもそこはあまり変わらない。激昂することはないが、疲れ切っていた。

「仕切り直し、でまた見に来ればいいんじゃない? もうだいぶ日が落ちてきた」
「そういえば貢は? どういうとこに住んでんの?」
「俺? んー、あんまり高田アパートと変わんないようなところだよ。場所は、…大学にはちょっと遠いか。ええと、道一本下っただけで白露に行けるとこ」
「え! 行きたい! 見たい!!」
「え、来るの? 見たいの?」
「これから行っちゃまずい?」
「掃除も片付けもしてないけど……まあ、いいか」

 別に恥ずべき話ではなかった。実際、汚れた俺の居住区にしょっちゅうやって来ていた。
 ここからバス使うか、と路線図を確認する。大稀は今日いちばん楽しそうな顔で頷いた。


  



にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村
参加中です。クリックいただけると嬉しいです。

拍手[37回]

PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
無題
 あーもう、あんな健気でかわいい恋人がいるのに、大稀さん、恋じゃないとか…!!
 もうもうっ。
 でもそれだけ貢さんの存在が鮮烈なんでしょうか。
 人の気持ちは難しいものです…(-"-)
如月久美子 URL 2012/02/18(Sat)18:50:11 編集
Re:如月久美子さま
おはようございます。いつもありがとうございますw

> あーもう、あんな健気でかわいい恋人がいるのに、大稀さん、恋じゃないとか…!!
> もうもうっ。
> でもそれだけ貢さんの存在が鮮烈なんでしょうか。
> 人の気持ちは難しいものです…(-"-)

ですよねぇ。アキちゃんいい子なのに!
とてもいい人がいるのにダメな方(こら)に走る、みたいなお話になってきました(笑
こんなどっぷり悩み倒す感じで続きます。引き続きお付き合いくださいませw
コメントありがとうございました~!

栗子
【2012/02/19 08:08】
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
プロフィール
HN:
粟津原栗子
性別:
非公開
自己紹介:
オリジナル小説(BL)書いてます。苦手な方は回れ右。
鶯太郎くんののんびり新生活「おやすみなさい、また明日。」17時にのんびり更新中。

****
20120404:樹海カップリング投票始めました。12時間置くと再び投票できます。10月5日までの半年間。コメント及び投票結果は今のところ私(管理人)しか見れません。遊んでやってくださいw
他、こここうしてほしいとかこれこうがいいとかご意見あればメールフォームよりお寄せください。よろしくお願いしますー

20120329:のんびりまったりやる気ない(そんなこともない)感じで新しいお話始めました。良ければー
カウンター
カレンダー
04 2012/05 06
S M T W T F S
18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31
フリーエリア
最新コメント
[05/17 粟津原栗子]
[05/15 粟津原栗子]
[05/13 如月久美子]
[05/11 粟津原栗子]
[05/10 Bei]
フリーエリア
↑日付クリックで一言ぼやいてるの見れます。
Powered by NINJA TOOLS
フリーエリア
バーコード
最新トラックバック
ブログ内検索
ブログ  [PR]結婚相談所 北海道
Template by wolke4/Photo by 0501